プレーンスケープ トーメント 非公式小説

葬儀場のポータル

前章 | 目次 | 原文 | 次章


 〈葬儀場〉に入り、ポータルを探した。死体置台スラブで目覚めた最初の記憶の場所の近くで、正面のアーチに何かを感じた……何か、忘れがたいほどの既視感を。黒ずんだ二本の柱のあいだの空気を、骨も凍える冷気が覆っている。アーチ自体が他の冷たい空間への境界であるかのように。なぜか私は、これが〈後悔の要塞〉へのポータルだと……今必要なのは、これを開くことだけだ。

 歯を食いしばり、爪を左前腕に突き立てて、乾いた裂ける音と共に皮膚を引き剥がした。柱のあいだの冷気が、熱望するかのように強まった。ポータルが、わずかに開いたかのように……

 人差し指の先端を刺し、傷が治癒する前に数滴の血を絞り出した。自分の後悔を書く準備をしながら、様々な光景が心に浮かんだ……その言葉を独りささやきながら、しかしその後悔は、心の中に反響した。

「多元宇宙じゅうで引き起こした死を、後悔している」

 その後悔を、皮膚の断片に書きこんだ……しかし治癒能力により何度も中断し、再び指を切って血を絞り出さなければならなかった。数分して書き終え、皮膚の断片の上で血が輝いた……私の肉体と、血と、後悔が一つになった。

 血の後悔が乾くのを見ていると、冷気の波に襲われた。視線を上げると、アーチの両脇の黒ずんだ柱が柔らかく光っていた。霧のような青い光の微片が漂い、中央に揺らめくカーテンを形作る。そのカーテンの先に、闇へと続く風化した石の舗装路がかすかに見えた。私はノルドンに、準備はいいか尋ねた。

「質問:受信。応答:ノルドンハ準備ガテキテ、待機デス。サラナル指示ヲ勝利スルタメ、待機中デス」

「正しくは“処理”だが……気にするな。フォール゠フロム゠グレイスは?」

「わたくしは、はるばるここまで来ました。土壇場で引き下がれば、自分に失礼というものでしょう」

 彼女はわずかな微笑を浮かべた。

「たとえあなたが丁寧に止めたとしても、わたくしは承服しませんよ」

「なら、私に選択の余地はないようだな……アンナは?」

「私は……」

 アンナはフォール゠フロム゠グレイスをにらみつけ、そして私のほうを向いた。その瞳に炎が見える。

行くなら、私もいくわ、ほんと。ここであんたを裏切ったりしないわよ、ほんとにね」

「よし。ダッコンはどうだ? 私と来るか?」

「お主の道は、儂の道だ」

「モーテ? 準備はいいか?」

「あ~」

 モーテは躊躇し、ポータルを一瞥いちべつし、私を一瞥いちべつし、またポータルを一瞥いちべつし、そしてガタガタとため息をついた。

「その、ここであれこれ言うつもりはないけど、でも、あ~……えっと、アンタに言うべきことがあるんだ……」

「何だ、モーテ?」

「えっと、オレたちが行く場所についてさ……それか、正確には……オレたちが……場所について」

いた場所? 何を言っているんだ?」

 それはほんのわずかで、ほとんど見逃すところだった—ダッコンの刃が揺らぎ、ふちが曇ったのだ。彼を一瞥いちべつすると、その両手は脇に下げられていた。まるで戦いに備えているかのように。

「これは……あ~、初めてじゃないんだ、オレたちがあれを通ったのは……つまり、その〈後悔の要塞〉には、行ったことがあるんだ……でも、オレたちは……オレは……その時は知らなかったんだよ」

「モーテ、説明してくれるか……今はもう、嘘もごまかしもなしだ」

「アンタがそこに行くまで、説明するのは難しいんだ……それに、アンタは、あ~、アンタを知らないだろ—アイツはオレたちとうたいを分かち合うようなタイプのなぐじゃなかったんだ。つまり、アイツがどっかの場所を探してたのは知ってたけど、なぜなのかも、どこなのかも、それか知らなかった。だからアンタに言えることは、んだ。んだから! オレはただ……そこに行った時に、何が起きたのか知ってるだけさ……」

 モーテを〈髑髏の柱〉から解放した実際的な私のことを言っているのだろう。

「それで……何が起きた?」

「ええと、オレたちはそこに行って—その〈要塞〉に、それで足を踏み下ろす前に、命がけで戦った……」

 彼は震えた。

「だからアンタに言いたいことは、あのポータルを抜けたヤツは、誰からも遠く離れたとこにたどり着く可能性が十分あるってことだ。肝心なのは、たとえ離ればなれでも、オレたちはアンタの唯一の希望かもしれないってことだね……」

「なぜそう言えるんだ?」

「〈要塞〉で待ってるのが何であっても、それは一度アンタを負かしてるからさ、大将……アンタがどうやって生き延びられたか分からないけど、もしまた倒れたら、〈要塞〉から引きずり出す誰かが必要だろ……」

「モーテ、お前が〈要塞〉について知っていることは、すべて話してもらう必要がある……重要なことなんだ」

「その〈後悔の要塞〉は……何リーグも広がってる。〈要塞〉だけど、それ自体が次元界みたいだ。ぜんぶが石で、ぜんぶが暗くて、ぜんぶが影だった—どこもかしこも影だ。そこに行くなら……準備しといたほうがいい」

「最初にそこに行った時、何が起きたんだ?」

「大将、に何が起きたかは知らないけど、に何が起きたかは知ってるよ……ずっと部屋から部屋に走り回って、あの影どもがはい回ってて、オレを仕留めようとしてきて……それで、オレは……突然、オレたちは“外に”いたんだ。誰かに引っ張り出されたみたいに……」

「ちょっと待て。お前が言う『オレたち』は、お前と私だけではないように聞こえるぞ」

 モーテは黙りこみ、代わりにダッコンが答えた。

「儂は何度もお主の道を歩いたことがあると識れ」

 ダッコンはゆっくりと、一言一言を測るかのように喋った。心が漂うかのように、彼の刃が霞がかった灰色になった。

「お主の道の一部は、儂に識られておる。〈要塞〉への道を、五人が歩んだ。それぞれが、自らの死を迎えた」

「だが……誰だったんだ? 彼らはどうやって死んだんだ?」

「儂は信仰の死を迎えた。髑髏は勇気の死を迎えた。女性は悲嘆の死を迎えた。盲目の射手は最終的で最も慈悲深い、身体の死を迎えた。お主は……お主は記憶の死を迎えた」

 彼が誰のことを言っているのかは分かった。フェルが説明した者たちと同じだ。髑髏はモーテ、女性はダイアナーラ、射手はザカリア。

「そうさ……」

 モーテが震えるかのように音を立てた。

「大将、あの〈要塞〉には影がいるんだ……」

「そこには闇があった。その影すべてが、シュラクトロールであった」

 ダッコンの声はささやき声で、その漆黒の瞳は私の向こうの何かを見つめているかのようだった。

「彼らは苦しめられた生き物である。お主の魂の傷は、彼らに識られておる。彼らはその傷を通して、お主を攻撃するだろう」

「ヤツらは〈髑髏の柱〉みたいに話してた……」

 モーテは声を落とした。

「ヤツらは知ってるんだ……」

「大丈夫だ。お前たち、〈要塞〉について知っていることを、すべて話してくれ……」

「影たちは苦しんでおる。彼らは苦悩を識っておる。お主の心を傷つけたものを使い、お主をさいなむ方法を知っておる。彼らに立ち向かうとき、かつてお主を殺したものに立ち向かうのだと識れ」

「ダッコン……モーテ、お前たちと私は生き残った。射手とダイアナーラには何が起きたんだ?」

「射手は身体の死を迎えた。女性は霊魂の死を迎えた。儂はあの女性を救えなかった。彼女を救うことが、お主のではなかったからだ。彼女の墓に、涙はない。誰も彼女の終わりを嘆くを識らぬ」

「しかし……なぜ私は彼女を救うことを望まなかったんだ?」

「お主の意志が識られておるのは、お主だけだ」

 ダッコンはそう言った。

「もう言えることはないよ、大将」

 モーテが言った。

「到着と同時に離ればなれになるってこと、場所だってこと、影がはい回ってるってことだけ……そして〈要塞〉のどこかに、オレたちの強い何かがいる。言えるのは、これだけさ……」

「そこには何も生きておらぬ。壁は闇である」

 ダッコンが加えた。

「分かった—ポータルを通り抜ける前に—私の助けになりそうな、共有したいことはあるか?」

「う~ん……」

 モーテが固まった。

「ああ、知っとくべきことが、もう一つあるよ—以前知ってた、オレたちをここに導いたは、アンタとは違ってたんだ。ぜんぜん」

「どういう意味だ?」

「あの別の、アイツは……誰のことも、あまり気にかけてなかった。誰のこともね。オレたち全員が〈要塞〉で死んでも、眉一つ動かさなかったはずさ。だから……その違いを手放さないで欲しいんだ。だって……えっと、オレはこのが好きなんだ。ね」

「だが、言いたいのはそれだけではないだろう?」

「ああ……」

 モーテは間を置いた。

「もう一つある—あのアンタは、ぜんぜん好きじゃなかったけど、頭が切れるなぐだった—オレが知る中で、一番頭が切れるなぐだ。あらゆる状況を想定してたよ。アイツが〈要塞〉で死んだなら、それはつまり……えっと……」

「私には無理だと思っているんだな?」

「いや……」

 モーテは頭を振った。

「そうじゃないよ、大将。必ずしも一番賢いヤツや、一番強いヤツや、一番タフなヤツとは限らないんだ……ときに決め手になるのは、自分が誰なのか、自分が望んでるのは何なのかを知ってるヤツだ。つまり、かつてアンタは不死になりたかった—でも結局、それはアンタの望みだったのか? 今度こそ、自分の望みを信じるんだ。オレが言いたいのは、それだけさ」

「お前の言うとおりだ。なあ、モーテ……話し合ったことはなかったが、お前が私とその場所に行く必要がないことは分かっているだろう? 行きたくないのであれば、私は構わない」

「ああ……分かってるさ、大将。それにアンタには嘘をつけない……オレは行きたくない……でも、行く。知っておいてくれよ。一度あのポータルをくぐったら、もうアンタだけのことじゃないってことを。アンタがもてあそんでるのはオレたちの生で、オレたちは死んだら立ち上がれないんだぜ」

「なら、なぜお前は……」

「ラヴェルさんが〈迷路〉でおっしゃったことが理由でしょう」

 グレイスの声は柔らかく、あまりにも柔らかくて聞き逃すところだった。

「そうでしょう、モーテさん?」

「ラヴェルが〈迷路〉で言ったこと—アイツはアンタが、苦しむ人々を磁鉄鉱みたいに引き寄せるって言ってた」

 モーテは頭を振った。

「それはきっと、アンタがずっと苦しんできたからだ。きっとアンタがついに成し遂げたら……も、ちょっとは平穏を知ることができるんじゃないかな。きっとね」

「そうかもしれないな。なら……一緒に来てくれるのか、モーテ?」

「当然だろ、大将?」

 モーテは頭を振った。

「つまり、オレたちは多元宇宙で考え得る、どんな恐ろしい次元界にも行っただろ。そんな絶壁の上なら、もう一歩踏み出すのも変わらないじゃないか」

 彼はガタガタとため息をついた。

の準備はどうなんだ? それがなきゃ始まらないんだぜ……」

 私は大丈夫だと答え、そして仲間と一緒に、友と一緒に、ポータルに入った。


前章 | 目次 | 原文 | 次章