プレーンスケープ トーメント 非公式小説

シギル

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 〈後悔の要塞〉に向かう前に、ここシギルでやるべきことがまだ残っている。

 特にラヴェルがシギルで“枝分かれ”していることを覚えていた。私はすでに彼女たちと出会っている。ラヴェルがまだ死んでいない可能性もある。ラヴェルの一部である、〈くず拾い街〉の老いぼれメベスのもとへと急いだ。

 家に入ると、メベスは視線を上げた。その顔は灰色で……病気のように見える。見つめていると、顔のしわにひび割れのような折り目が広がっていく。私に焦点を合わせるのが難しいのか、彼女の灰色の瞳が揺れた。

「メベス、大丈夫か?」

「あぁ……」

 彼女はそう言って、弱々しく微笑んだ。塵の層を通して聞こえてくるかのような、しわがれた声だ。まるで、こだまのように。

「もう少し……だけなら……」

「メベス……お前は自分がラヴェルだと知っていたのか?」

 彼女は深く一息ついた……その言葉はゆっくりと、喉の中で音を立てた。

「そうかもしれないねえ……メベスは何度も何度も、自分を忘れてるのさ……他の誰かだったらって、夢を見て……」

 何世紀にもわたる重さが込められているかのように、一言一言が重みを増していく。安らおうとするかのように、彼女は体をわずかに動かした。

「どうして、自分が誰か分からないなんてことが?」

、どうして自分を知らないんだい?」

 メベスは唇をなめた。

「たくさんのことが……自分の欠片さえ……記憶の割れ目から落ちてくんだよ。忘れられたことの影、記憶の断片は、悪だったのかも……善だったのかもしれないねえ」

「だが、なぜメベスなんだ? 再びラヴェルになれるときに、どうして偽装を?」

「ここで、この場所で、あたしがしたのは物や体の繕いや、整骨や、赤ん坊の分娩さ……それで、あたしは満足してたんだ」

 彼女はため息をついた。

「その、そのラヴェルのことは……」

 彼女は再び唇をなめた。

「きっと……記憶を違えることが、慰めになることもあるって、おまえもそう思うだろう」

「メベス、あんなことが起きた後に、またお前に会えてよかった……」

 メベスはうなずいた—あらゆる動きが苦しそうだ。

「ああ、あたしのいとしいこ……」

 彼女は息を吸い、たじろいだ。

「おまえをここで見るのは……残響みたいだよ。残った時間は少ない……糸が、ラヴェルが……今この時にも、ほどけてく」

「痛むのか?」

 彼女はうなずいた。

「ああ……でも一番痛いのは、皮肉だよ……」

 彼女は弱々しい笑みを浮かべた。

「親切が、三倍になって返ってきた……あたしの数少ない親切な行動が、死につながるのが、この次元界なのさ」

 彼女はそっと笑った。

「でも、後悔はしてないよ……」

「質問があるんだ、メベス。お前は私に—」

 彼女は手を上げてさえぎった。

「いとしいおとこ……最期くらい、あたしの話を聞いとくれ……」

「分かった……」

「いとしいおとこ……」

 彼女はため息をついた。

「あたしの願いは、〈貴婦人レディ〉を鳥籠とりかごから解放することだったんだ……おまえには、ほしかった……娘には……」

 彼女はため息をついた。

「この次元界には、こういう言葉があるんだよ……妖婆ハグの優しさは……憎しみよりも残忍で、触れたものを汚染する……」

 私はその言葉の真実を見たことがある。しかしそれはつかの間の思考で、私が知ったラヴェルには不似合いだと思った。目の前のラヴェルの断片に、本当の気持ちを伝えた。

「こんなことになってしまってすまない。お前を救えていれば、私は—」

「あたしはもう死にかけてる……」

 彼女は湿った目をしばたたかせた。

「あたしの終わり……あらゆる時間から、ラヴェルの糸がほどけてく……」

 彼女は咳きこんだ。

「でも……」

 彼女の灰色の瞳が私を見た。

「きっと、すべてが失われるわけじゃない……あたしの黒い棘の種……持ってるかい?」

「ああ。ここに」

「あぁ……」

 彼女は種をとても慎重に手に取り、灰色の髪に滑りこませた。

「これで、円環の調和が果たされるよ……」

 彼女は視線を震わせながら手を上げて、近づくように私を招いた。私は彼女に近づき、ひざをついた。

 彼女は何かを静かにささやき、両手で私の頭をはさみ、額にそっとキスをした。彼女の唇が触れ、私は目を閉じた……

「メベス、次元界がお前を優しく迎え入れんことを」

 私はそうつぶやいた。

 目を開けた時、メベスは消えていた。ラヴェルの死体を見下ろした時も知らなかった涙が、今はとめどなく流れ、頬を伝った。

 私にはもう一つ用事があった。書き物屋区に戻り、唱道者しょうどうしゃイアニスが、娘のダイアナーラが〈催事場〉に残した感覚石を体験できるように許可を得た。イアニスに許可を得たと伝えた時、私たちが交わすべき言葉は少なかった。私はできるだけ早く立ち去った。

 唱道者しょうどうしゃの家を離れながら、通りの向こう側に立っている女性を見て、とあることを思いついた。モーテのためにできることは少ないが、一つくらいはあるだろう……

 その美しく魅惑的に着飾った売春婦は、〈蟲蔵むしぐら〉で見た者たちとはまるで違い、高価な香水の香りがした。その顔の線は、柔らかく暖かい色の淡い線で絶妙に強調されている。私が近づくと彼女は微笑み、優雅にお辞儀した。

「こんにちは、旦那さま。グレイス先生の〈売春宿〉では満たすことのできない欲望を鎮めたいのでしょう?」

「私ではなく、よければこのモーテを……」

 若い女性はモーテをしばらくじろじろと眺め、そしてうなずいた。

「ええ……ええ、できると思うわ。ええと、きっと……何か思いつくでしょう。もちろん、料金は同じ—共通銅貨500枚よ」

「もちろんだな。ほら……」

「いいぞ! ありがとう、大将!」

 モーテは振り向き、女性に付いていった。

 私は他の仲間たちと宿を取った。しばらくして、モーテがふらふらと浮かびながら部屋に入ってきた。彼はつややかな光沢に覆われていて—蜜蝋をかけて磨かれたかのようだ—頭頂部には唇の形の赤い染みがある。私の存在にはほとんど気づいていないようで、クスクスという独り笑いと、愉快そうなため息を繰り返していた。

 次の日、敵に立ち向かう時が来た。何としても、私の不死に終止符を打つのだ。


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