プレーンスケープ トーメント 非公式小説

コークスメタル

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 次の日、セバスチャンと話した。彼は約束をしっかりと果たした。私の傷を、少なくとも美容的には、なんとかすることができたのだ。死体のような見た目を変えることはできなかったようだが、傷痕は目立たなくなっていた。

 私は攻城塔に興味をひかれていた。なぜグロスクは、あれほど関心を寄せていたのだろうか。何と言っても、あのような兵器は彼らの〈流血戦争〉ではありふれていて、シギルから引っ張っていくよりも現場で建設するほうがずっと簡単だ。

 ラズロ少年が言っていたことを思い出し、塔の近くのポータルがあるらしい場所に近づき、そこで私のアイデアを試してみた。塔に入りたいという欲求を、完全に抑えたのだ。ポータルが出現したので、通り抜けた。

 塔の中に出た。その内部を威圧する、鉄の……生き物を見た。驚異的なサイズだ。もし背を伸ばせば、攻城塔の屋根を突き破ってしまうだろう。が炉を叩くと、稲妻のようなとどろきが通路に響き、すすと灰の臭いが空気を満たした。

 まだ私たちには気づいていないようだ。私はの注意を引くことによる結果を推し量りながら、躊躇していた。しかし、複数の生涯を経てさえ抑えきれない好奇心が、バランスを崩した。さらに私は自分に言い聞かせた。おそらくは、私について何かを知っているだろう。

「こんにちは」

 巨人が私のほうを向くと、金属と金属とがこすれ合う音が響いた。このゴーレムは、攻城塔自体に組みこまれているようだ。桁やパイプ、巨大なロープがその下半身を通って壁につながっていて、体の底部は炉になっている。

「お前は何だ?」

 私は目的を与えられた鉄。多元宇宙を破壊する道具を鍛えている。

「武器を鍛えているのか? それがお前の目的か?」

 金属は肉体のようだ。どちらも血管に可能性を帯びる。熱と圧力を与えたとき、その可能性が表出する。私の目的は、この可能性を生み出すことだ。その発現を許すことだ。

「誰のために武器を造っているんだ?」

 エントロピーのためだ。武器は発現を求めている。

「エントロピーは何のために武器を必要としているんだ?」

 この塔の向こうで、秩序が軍隊を呼び集めている。多元宇宙がその傷を癒やしている。やがて、その力はエントロピーと等しくなるだろう。

「多元宇宙がお前の敵なのか? なぜだ?」

 多元宇宙は呼吸をしている。成長している。停滞している。次元界の周囲に、ひと環ひと環、鎖を造っている。やがて、エントロピーさえ鎖につながれるだろう。

「エントロピーを鎖につなぐことに反対なのか?」

 何であれ、その破壊を封じたとき、それは異なる死に方をしたに過ぎない。

「つまり、不死は単なる別の種類の死だと言っているのか?」

 不死は言葉だけでしかない。存在するものは、すべて死ぬことができる。生きているものには、防ぐことができない武器がある。時。病気。鉄。罪。

「どんな武器を使うべきか、どうすれば分かる?」

 武器を鍛えるには、敵を知らなければならない。敵の断片から始めることだ。血の一滴。結晶化された思考。希望の一つ。それらすべてが、敵が死ぬ方法を語っている。

「敵が遠くから、影から攻撃してきて、姿をあらわさない場合はどうすれば?」

 ならば、それがお前が使うべき敵の断片だ。敵の行動が、お前に多くのことを語っている。敵は直接交戦することを望んでいない。それが弱点だ。

「もしくは……何らかの理由で、直接私と交戦できないか」

 可能性は等しい。いずれの可能性も、弱点を明らかにしている。

「それをどうやって利用すればいい?」

 敵が直接お前と対峙することを望まないなら、その望みを否定しろ。敵と戦え。直接対峙することができないなら、その理由を探せ。その理由が、弱点を明らかにする。

「ふ~~む。私を殺す武器を鍛えることはできるか?」

 できる。

 自分が本当にそれを知りたいのか分からなかったが、それでも続けた。

「本当か? どうやって?」

 お前の血の一滴が必要だ。それがすべてだ。

 その武器は役に立つかもしれない—記憶を奪われ弱くなった私に対して機会は多くあっただろうことを考えれば、敵が本当に私を恒久的に殺すことを望んでいるかは分からないが。私は血を提供し、ゴーレムに続けるように言った。

 お前を破壊する武器が鍛えられ、育てられた。しかし不十分だ。お前の心臓を脈打たせ、肉体を繕う魔法は強い。お前は次元界から隔絶された殻の中で、その刃を体に沈めなければならない。

「なぜだ?」

 その理由は、私には分からない。それでもお前を破壊するには、武器と場所が必要だ。

「次元界から私を隔てる殻は、どこで見つかるだろうか?」

 それは私には分からない。

「先ほどお前は、多元宇宙が自らの死を封じていると言ったな。それは異なる死に方をするに過ぎないと。死を他の死より悪くするものとは何だ?」

 すべてのものには、衰退という共通点がある。戦争は必要だ。死は必要だ。衰退は必要だ。

「どれだけ衰退すれば十分だというんだ?」

 限界はない。限界は秩序の鎖の環のひとつだ。限界は砕かなければならない。

「その結果が死だとしても?」

 すべてはエントロピーの刃に倒れなければならない。創造の壁に突破口を開くことが必要になる時が、近づいている。秩序は切り捨てられるだろう。鎖は破壊されるだろう。多元宇宙は変質するだろう。

 興味深い哲学だ。しかし気が触れたカオステクトでさえ、このような完全な混沌を喜んで擁するかは疑問だ。私は別のことを訊いた。

「ここは何だ?」

 この塔は攻城兵器だ。次元界のあいだの壁に突破口を開くために存在する。

「次元界に穴を? どうやって?」

 塔自体を次元界に据え付ける。塔の橋が開くと、多元宇宙の傷が引き裂かれる。軍隊が一つの次元界から別の次元界へ、塔を通して侵攻する。次元界がエントロピーの目的を達したとき、塔は再び自らを据え付ける。

「塔を使用した軍隊はどうなるんだ?」

 エントロピーが破壊する。

「そして攻城塔が侵攻した次元界は?」

 エントロピーが破壊する。

「この攻城塔が次元界を移動できるなら、なぜお前はここに留まっているんだ?」

 塔はこの都市に囚われている。この都市は、穴を開けることができない鳥籠とりかごだ。かつて、塔は次元界を包囲していた。なぜここに運ばれたのか、私にも分からない。どうやって脱出できるのか、私には分からない。

「なぜお前は武器を造っているんだ?」

 私の体の鉄は、かつてわずかな痛みの発現としてのみ存在した。剣。槍。斧。矢尻。カタパルトの鋲。これらの戦争の道具から、私は造られた。これらのわずかな痛みの発現が、この体の炉で溶かされた。私の可能性が表出することを許された。今の私の目的は、他の金属の可能性を引き出すことだ。

「誰かが武器を溶かし、お前の体を造ったのか? 誰が?」

 エントロピーが、私を次元界の戦場から引き起こした。

「ラヴェルという名前の夜の妖婆ナイト・ハグのことを、聞いたことはあるか?」

 その夜の妖婆ナイト・ハグは、この都市を分かつことを求めていた。彼女の偉大な仕事は、破壊をもたらすものだった。彼女はエントロピーの道を歩いていた。

「彼女に何が起きたか知っているか?」

 秩序が彼女に鎖をつけた。鳥籠とりかごの中に投げこまれた。

「その鳥籠とりかごがどこにあるか知らないか?」

 彼女の牢獄は、私には分からない。

 後に知ったことだが、このゴーレムは、とある古文書では「コークスメタル」と呼ばれていた。私は私を殺し得るゴーレムの刃を受け取った。左腕の苦悩のシンボルを彷彿とさせる、醜い見た目の奇妙な武器だった。黒い血管が金属の表面をのたくり、ふちは鈍く、温かいバターさえ切れなそうだ。刃に触れると、わずかに温かかった。

 他にゴーレムと話すことはない。私たちは塔を後にした。


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