都市の別の区画へと進んだ。上層区、あるいは書き物屋区として知られる場所だ。そこで私たちのほうに歩いてくる女性に気づいた。ハーモニウムのメンバーが、ボディーガードのように彼女に続いている。
厳格そうに見える年上の女性で、どこかへ行く途中のようだ。私の接近に気づいた彼女は、唇をきつく結んだ非難めいた渋面で私を値踏みした。何かが明白に気に入らない様子だが、私は強情に突き進んだ。
「こんにちは……」
女性はぶっきらぼうにうなずき、氷のように冷たい口調で話した。
「ええ? 何かしら? 言葉に気をつけなさい。私はディリジェンス、この区画の第四執政官なのですから」
「私の姿に何か問題が?」
「ええ、まったくもって! 服飾規制条例が可決されれば、そんな汚い半裸姿でうろつくなど許されなくなるでしょうね……」
私は侮辱されたようだ。しかし、より外交的なアプローチに従うことにした。
「失礼ながら、私はとても清潔だ、そして……僭越ながら、マダム……あなたの衣服を不快に思う文化もあるだろう」
彼女は懐疑的に私をねめつけ、そしてうなずいた。
「もっともですわ……それでも、荒っぽいお仲間であることを否定はできないでしょう」
「私の姿は環境と、そして困難な人生の産物に過ぎない。非難されることではない」
「あら、それは違うわ! すべての失敗を人生と環境のせいにするなんて、なんて簡単なのでしょう! その態度から、教育を受けていることは分かります。それでも、あなたの放浪と無分別な暴力の生活は明らかですわ。シギルの街路で血まみれの放浪者でいるより、貢献的な市民になってはいかがかしら?」
「どうにもならない選択だったんだ」
「まあ? どうしてかしら?」
彼女の冷ややかさが溶け、表情が興味深げなものに変わった。
私の唇は笑みに変わった。時間はある。彼女に私の物語を……私が知っていることを語った。話を終えたとき、ディリジェンスはショックを受けているように見えた。
「それは……大したお話ですわね」
「ただの物語だったらな。マダム、これが私の人生で、この傷痕がその証拠だ——お前が最初に言ったように」
「ええ、ええ……そのとおりですわ」
彼女はわずかに微笑んだ……私は彼女がこのようなことを受け入れることさえできないのではないかと、いぶかしみはじめた。
「幸運をお祈りしていますわね。またご自分を見つけられますよう」
彼女はすでに忙しいスケジュールから捻出できる時間を越えていると主張し、何も質問に答えずに立ち去った。
私は屋外カフェに移動し、近くに立っている客のあいだを回った。
そこで飲み物をすすりながら外の空気を楽しんでいる、美しく着飾った若い女性と話した。私の姿を目にした彼女は、わずかに目を見開き、不安そうに微笑んだ。
「ええと……こんにち——」突然、彼女の視線がモーテに向かった。「まあ! なんて可愛いミミルなの!」
私は気分転換に、モーテを少し楽しませることにした。
「そうか? 彼は頭蓋骨の上をかかれるのが好きなんだ」
「本当に?」
彼女は微笑んだままだが、疑わしげだ。
「冗談でしょう! ただのミミルなのに……」
「どういうことだ? 彼らは引っかかれるのを楽しむだろう?」
私は何食わぬ顔で訊いた。
彼女は頭を振った。
「いえ、そんなの見たことない。ミミルは単なる物なんだから——」
モーテが割りこんだ。
「ええと、いいかい、嬢ちゃん、そいつはアンタのミミルの品質の違いだよ。他のより、もっと魔法がかかったヤツもいるんだ——オレみたいにね。言ってみれば……もっと“自己認識”してるのさ」
女性は肩をすくめた。
「確かに、ありえるわね」
私は彼女に、書き物屋区について質問した。彼女や何人かの客から、区画の大半が記録館と行政施設であることを学んだ。私が今いる場所は違っていた。
彼女に質問し、これらの場所について多少明らかになった。
別の客の話し声が耳に入った。いくぶんぼんやりとした若者の連れに対して、年長の客が不明瞭な規制に関する講釈を垂れている。年長の男は何やら堅苦しく見える。服装と装飾品は極めて清潔で、きちんと手入れされており、彼は塵や糸くずを払うために何度も話を中断していた。炎に対して上向きに刺さった様式的な短剣に似たシンボルが、その
私は彼の注意を引くために割りこんだ。男の視線が私を通り過ぎ、モーテに止まって輝いた。
「おお、何たること! あれを見ていただけないか! 浮遊する頭蓋骨だ!」
モーテは振り返って後ろを向いた。
「マジか?! どこだ?!」
モーテが喋ると、男は息をのんだ。
「無情なるテュニィの不条理な法にかけて!」
彼は突然口を覆い、申し訳なさそうにアンナを見た。
「失礼、失礼……はるか昔に死んだ、恐ろしい暴君の男だ。その名をこのように口にするべきではなかったな。やや下品であった。深く謝罪しよう、お嬢さん。悪気はなかったのだ」
アンナは肩をすくめ、目を回した。
「好きに話しなさい、
彼はモーテのほうに向き直った。
「だが、見よ! 頭蓋骨で、浮揚性で、地面から浮かび上がり、周囲を認識し、聴覚と言語能力と視覚を有しているぞ」
彼は突然親友にでもなったかのように、私のほうを向いた。
「これぞまさに、この次元界が私を決して飽きさせない理由の一つだ——すべてを目にしたと思うやいなや、別の側面を見せてくれる、そして……」彼は陶然として両手を上げた。「……突然、まったく新たな素晴らしい光景が開かれるのだ」
「モーテがその『素晴らしい光景』にふさわしいかは分からないがな」
この会話を始めたのは間違いだったかもしれないと思いながら、苦々しく言った。男は私を無視し、モーテに関心を向けた。
「いいかね、頭蓋骨くん……」
彼が喋りはじめた時、モーテが息をのんだ。
「見ろ、アンタの後ろだ——浮遊する頭蓋骨がもうひとつ!」
諦めて成り行きに任せることにした。男は私のことを完全に忘れてしまったようで、驚いて振り向き、
「なんと! どこだ? どこなんだ!」
「オレが指さしてるとこだよ! そこだ!」
哀れな男はモーテが言うものを見ようとするのに必死で、モーテに指などないことにも気づかない。
「どこだ? 私には見えないぞ!」
モーテは憤慨を装って答えた。
「アンタが見逃しただけだよ! あのパレードを! 〈大いなる転輪〉が百万回回転しても、二度とないかもしれないぞ!」
「……君は独特なユーモアも備えているようだな」
彼はようやく理解し、オホンと咳払いをした。
「人の性質に関する鋭い見識と呼ぶほうが、オレ好みだね」
モーテは肩をすくめるかのように、ひょいと上下に動いた。
私は再び男の注意を引こうとした。彼は不意に初めて私を見つめ……目を見開いた。
「無情なるテュニィの不条理な法に……」
彼は申し訳なさそうに言葉を止めた。
「君、大丈夫かね? 君は……」彼は言葉を探した。「……痛々しいぞ」
私は大丈夫だと答えた。アンナが会話に割りこんできた。
「そうね、彼を見るのは痛々しいわ、ほんと」
「面白い冗談だな、アンナ。質問があるんだ。お前は誰だ、というような質問が」
「おお、私の名前はエイブル・ポンダー゠ソート。つい最近、行政試験に合格したばかりで、〈A9〉の地位を博し、〈記録の館〉の研究顧問であり、シギルの物理法則と歴史が専門の、数多の補佐官の一人だ。門外漢にとっても興味深いテーマと法則を研究しているぞ。本当に、とても面白いのだ……」
私は彼の
「知らんのか、これは秩序協会のシンボルだ。我々はここシギルにおいて、立法と法廷運営における多大な責任を負っているのだ。数多の裁判官、
「秩序協会は、多元宇宙が法によって支配されていると信じている。すべての法を知れば、多元宇宙を理解することになるだろう。それが我々の目標だ。法とその限界を理解することで、特定の法を避けることもできる」
やはり彼は役に立つかもしれない。私は〈
「〈
彼は知られていることを指折り数えはじめた。
「ひとつ、単なるシギルの象徴ではない、と言われている。確かに実在し、確かに危険なのだ。ふたつ、
他の話題についても質問したが、彼の知識が欠けているか、説明があまりにも長々しくて要点にたどり着かないかのどちらかだった。私が席を外そうとする様子にも気づかなかったため、ただ歩き去った。
私は他の客のところに移動した。小さな陶磁器のカップでワインを飲んでいる、背の高いスレンダーな女性だ。彼女は誰かを捜しているように見えた。顔つきはエレガントな異国風で、耳は長い髪で覆われていたが、先端がとがっているように見えた。
私があいさつすると女性は顔を向け、そのスミレ色の瞳が、傷のないアメジストの欠片のように輝いた。彼女の話し方は音楽のようだった。何百もの小さな水晶の鈴がチリンチリンと音を立てるのが、聞こえるような気がした。私の耳がその優雅な音を手放すのを拒んでいるかのように、その言葉は耳に残った。
「ネメレエは、傷痕をまとう気難しい旅人に顔を向けました。彼女は彼の望みを尋ねました」
「わーお」モーテがコメントした。
「ふんっ!」
アンナがモーテを鼻であしらう。
「いやらしい頭蓋骨ね、よだれを垂らすんじゃないわよ」
「おいおい、なんて短気な小娘だ! 構って欲しいのか? やきもち焼いてんなら、アンタのことも、よだれを垂らすほど求めてやるぜ……」
モーテがよだれの音を立てながらアンナのほうへ浮遊していく……
アンナが言った。「あと少しでも近づいてみなさい、頭蓋骨、そのうるさい歯を百歩先まで吹っ飛ばしてやるわ!」
モーテは出し抜けに止まり、ごにょごにょつぶやきながら離れた。私は彼らのやり取りを無視することにした。
「お前がネメレエか? この水差しの合言葉を知っていると聞いたんだが」
女性は瓶を調べようとも瓶に触れようともせず、ただ話した。
「ネメレエは旅人から瓶を受け取り、手の中で回しました。彼女はこのようなものを、見たことがあるでしょうか? おそらく……そう、彼女は今思い出したのです。ネメレエは瓶を返し、そして彼の耳にささやきました……」
私はその言葉を知っていることに気づいた——「ニルデノサージュ」——しかし女性は、その言葉をささやいてはいない。ただ、
「旅人は彼女が伝えたことに満足し、立ち去るでしょうか?」
「まだだ。お前は誰かを捜しているのか?」
「『彼女はどこにいるのでしょう?』ネメレエは思いました。彼女の友人のアーウィンは、何日も前にここで彼女と会うはずだったのに」
女性が痛ましいため息をもらすと、その悲しみに呼応して周囲の空気が冷たくなった。
「彼女が最愛の友人を見つけるまで、この広大な異国の都市を、どれだけ捜せばよいのでしょうか?」
私の始まりは、アーウィンという名前だったと言ってもいい。最初に〈葬儀場〉を離れたときに、私を見た〈
「お前の友人を見つける助けができるかもしれない。どんな見た目なんだ?」
ネメレエは両手を合わせて握りしめ、私に頭を下げた。
「友人の知らせを聞けば、ネメレエは大いに喜ぶことでしょう! 彼女は親切な旅人に、アーウィンの外見を伝えました。彼女に行き合えば、彼は気づくことでしょう」
心の中にイメージが浮かんだ——ネメレエに似ているが、金色の瞳と燃えるような深紅色の髪の女性だ。