プレーンスケープ トーメント 非公式小説

裏切り者

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 行政棟に入り、上を目指した。馬のような生き物であるソウミーン、略奪者、散り散りのフィーンドに出会ったが、私たちを妨げるものではなかった。

 最上階のバルコニーで見つかったトリアスは、自らが破滅させた街を見渡していた。彼は振り返りもせず、背後の私に声をかけた。

「ここで何を成そうとしているのですか?」

 トリアスは腕を広げ、街を示した。

「貴方はこれほどの短時間に、多くの善を行いました。裏切り者たちが自らの愚劣の深さに気づくことを、妨げてはなりません」

「なぜ嘘をついたんだ?」

「貴方は指針を必要としていました。その対価が、裏切りだったのですよ。今世や来世で何らかの真実にたどり着く権利を得たと、どうして信じることができたのでしょうか? なんと傲慢なのでしょう。私を解放することは、下等な存在としての貴方の義務でした。ですから、貴方に対する借りはありませんし、むしろ貴方に借りを与えたのです。貴方に値する以上のものを授けたのですから。貴方が私を解放したのは、自分自身のためだったのでしょう?」

「それで、なぜお前はカーストをカルケリに引きずりこんだんだ?」

「裏切り者たちの街が裏切られ、報いを受けたのですよ。理由などありません。下方次元界との盟約が、強固なものとなりました。大義がなされるのです」

「大義? どんな大義なんだ?」

「フィーンドの軍隊によって流された血は、天軍の正義の怒りによってあがなわれるでしょう。それが、堕ちた者による大義です。この街は大義の名の下に堕ちるのです—悪の抹殺の名の下に。犠牲になる者たちのことを考えれば、些末な犠牲です」

「悪の根から生まれる善などないだろう」

「数多の生をまっとうしたとしても、貴方が私を裁くことなどありません。裏切りについて話しましょう。裏切り者は臆病なのですよ。敵が互いに殺し合うのをやめて向かってくることを恐れて、その敵に武器を売っているのですから。裏切り者は手本となることを拒みます。裏切り者は、悪がすべての心を堕落させるまで、次元界じゅうにフィーンドをはびこらせます。私がなぜセレスティアを登り、その斜面に戦争の火をつけようとしているのかについては、問わないことです」

「お前は善の真髄を、悪の化身によって穢している。それは裏切りではないのか?」

「裏切りには様々な定義があります。そのすべてを経験するには、長く生きなければなりません。貴方の生でさえ、もし忘却を伴っていなかったとしても、その真価を認めるのに必要な年月には足りません。このような裏切りは、まったく裏切りではないのですよ」

「お前の翼には本当は何があったんだ、トリアス?」

「バートルの炎は確かに熱く燃えていますが、父の怒りに比べれば蝋燭ろうそくも同然です」

 彼は焼けた翼の断片をはためかせた。

「セレスティアから堕とされる痛みに匹敵するものなどありません」

「なら、お前は堕天使なのか? どうしてお前の言葉を信じられるんだ?」

「定命者よ、裏切りと堕天については、口にしないことです。善の勝利のためならば、私は自分自身すら犠牲にするのです」

「それは気高いな、トリアス。しかしなぜお前にそんな権利があるんだ?」

「私はここで悪を目にし、行動しようとしています。私のが、私に権利を与えているのです」

「意志が権利を与えることなどない。身を引け、トリアス。そうすれば争いにはならない」

「その偽りの不死を、真の不死に対して試そうとするほど愚かなのですか? 退きなさい、ヒューマン。さもなければ、当然の帰結を示すことになります」

「かかってこい、トリアス」

「誰かに対して剣を振るうのは、久方ぶりですよ。決闘をしましょう。貴方と、私で」

 困難な戦いだった。トリアスが強かったからではない。実際、彼は弱かった。カーストの市民をまとめたことが功を奏していた。しかし私は、彼を滅ぼさないようにしなければならなかった。彼だけが持つ情報があったからだ。最終的に、トリアスは負けを認めた。

「今は貴方に屈しましょう、定命者よ。幽閉によって、衰えてしまったようですね……この状態では、貴方に敵いません」

「お前の知識が必要だ、トリアス。〈後悔の要塞〉に行く方法を教えてくれ」

 トリアスは答える前に咳きこみ、血まみれのつばを吐いた。

「お教えする前に、約束していただかなければなりません。私の命を奪わないと誓うのです」

 トリアスを逃がし、他の誰かが裏切られるのは好ましくないが、彼の知識が必要だ。彼が名誉を挽回する可能性もある。加えて、ラヴェルはもう死んでしまった。再び記憶を失ったときのために、これ以上情報源を失う余裕はない。

「求める情報を渡せば、命までは奪わないと誓おう」

「貴方が求める場所へのポータルは、巨塔の上の円環の中に、扉の都シギルにあります。あの都市の中に、貴方のような死者が連れて行かれる場所があります……」

「〈葬儀場〉のことか?」

「貴方はそこで目覚めたのではないですか? 昨今の次元界は、皮肉で満ちているようですね。貴方はすでに、とても近くにいたのですから……」

「鍵は何だ?」

「〈後悔の要塞〉は、涙で塗り固められています。そして類は友を呼ぶのです。〈要塞〉に入るためには、捧げ物が必要です。ポータルの近くで心の中に後悔を思い浮かべれば、冷たい死の抱擁のようにポータルの存在を感じるでしょう」

「その冷気に浸されているあいだに、自分の皮膚の一部を剥がし、左手の人差し指の血によって、そこに後悔を書かなければなりません。ポータルが開き、〈後悔の要塞〉に隠れた真実を見つけ出すことができるでしょう—そしておそらく、そこで番人に出会うでしょう」

「どうやって知ったんだ?」

「私は次元界を越えて、多くの同盟を探し求めていました。その探求が私を〈要塞〉へと導き、そこでその支配者と、影落ちる館の番人と話したのです。今の貴方は、シギルに帰りたいと願っているはずです。その両手の血が、ポータルの鍵として働くでしょう。入ってきた扉を通り抜けるだけで、シギルに戻ることができます」

「〈要塞〉について、話せることはあるか?」

「広間は闇に覆われ、がらんどうに見えます—しかし貴方と同じく、〈要塞〉は苦しむ魂を磁鉄鉱のように引き寄せます。貴方のように、空虚ながらも時の塵芥ちりあくたで満ちています。貴方のように、苦悩の記念碑なのです。放浪者よ、その苦しむ魂についてお話ししましょうか?」

 私のうなずきに、彼は続けた。血まみれの笑みが広がる。

「彼らは貴方の代わりに死んだ者たちの魂なのですよ。貴方が生きるはずだった影。彼らは影であり、貴方が存在に投げかける影なのです。貴方を探してさまよい、その苦悩を貴方に味わわせようとしています。貴方は彼らの手で報いを受けるでしょう。貴方と、貴方に同行するほど愚かな者たちは」

 彼は私たちのあいだにくさびを打ちこもうとしているのかもしれないが、このささいな情報は、仲間たちもすでに〈髑髏の柱〉から聞いていた。

「そうだな。番人について話せることは?」

「あの者は強力です。貴方では勝てないでしょう。そして彼の冷たい手から、定命性を奪い取ることもできないでしょう。貴方の定命性は失われたのです。貴方が手を出したのは、愚か者しか引き受けない用向きなのですよ」

「私は愚か者かもしれないが、とにかくその番人についてもっと教えてくれ」

「人の定命性は、人生における行く先を指し示す羅針盤なのです。それを物体のようにつかむことができるのならば、定命性を引き裂かれた人の本質について、多くのことを学ぶことができるでしょう。貴方の相手は、貴方よりも貴方のことを知っています。貴方の数多くの半端な生において、彼は貴方を観察し、研究してきたのです。私には彼の心が分かります。貴方が求めるものを、彼が返すことはありません」

「私が去った後、お前は何をするつもりなんだ、トリアス?」

「再び楽園の門への戦いを始めるつもりです。彼らが私を受け入れることはないでしょうし、私の存在には他に目的がありません」

「トリアス、お前は父親の顔を忘れてしまったのか?」

「どういう意味でしょうか?」

「上方次元界は正義の、美の、善の故郷だ。そして容赦の故郷でもある。故郷に帰れ。自分の過ちを認め、赦しを請うんだ」

 腹を立てた彼は言い返そうと口を開き……そして固まり、思案した。そして彼は、頭を下げた。

「定命者よ、貴方の言葉には説得力があります。その知恵が私を貫きました。父祖の赦しを求め、彼らが選ぶ天罰を受け入れましょう。次に会うときには、償うことができていれば良いのですが」

 トリアスは本気で言っていた。彼がその言葉に従うのか、多くの者たちを裏切ったように、自分の言葉も裏切るよう自分に言い聞かせるのかは分からない。私には火急の用件がある。私たちはシギルへのポータルを通った。


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