プレーンスケープ トーメント 非公式小説

髑髏の柱

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 血のような赤い空、砂だらけの裸の丘が私たちを囲んでいた。この近くに〈髑髏の柱〉があるはずだ。上手くいけば、今度こそ最終的な答えが得られるかもしれない。期待しているわけではないが。

 この地域の捜索を始めると、すぐに多数のフィーンドに遭遇した。危険なほどの数ではなかったが、さらなる相手がすぐにあらわれるだろう。私たちは先を急いだ。

 狭い渓谷を下っていると、前方から数十もの声が聞こえた。自然の石のアーチをくぐり、探していたものを見つけた。その光景が—恐ろしくそびえ立つ、脈動する—吐き気と理由のない嫌悪と、そしてわずかな既視感で私を満たした。無数の腐った頭部が、巨大な山を形作っている。それは絶えず脈動し、かわるがわる言い争い、すすり泣き、語り合い、叫び声を上げ、ささやいている。この汚らわしい山の内部のどこかから絶えず頭が浮かび上がり、一方で別の頭がこの陰惨な柱の中へと沈んでいく。私が柱に近づこうとすると、モーテがわめいた。

「おいおいおい! 大将! 大将……聞いてくれ、アレに見られるわけにはいかないんだ。オレだけこっから出して……どっかに降ろして、あとで拾ってくれよ……」

「なぜだ、モーテ? どうしたんだ?」

「あ~……それは、ほんとに言いたくないんだ。とにかく立ち去ろう、な?」

 モーテの声は恐怖に震えていた。彼の視線が、私と巨大な頭の柱のあいだを揺れる。

「そんなに秘密にさせておくわけにはいかないぞ、モーテ。ここに何があるのか、教えるんだ」

 モーテは目を合わせず、ため息をついた。そして、ついに屈した。

「分かった、分かったよ……教えるよ。バートルの第一層、アヴェルヌスに柱がある。嘘で他人を死なせたヤツらの頭でできた柱が。まあ……それがアレだ。オレが行き着いた場所なんだ。分かるだろ」

「つまり……お前はあの頭の一つだったのか?」

「ああ。オレはちょっと……誇張しちゃってさ。それでオレの提案が—」

ってことでしょ!」

 アンナが非難したが、モーテは動じずに続けた。

「……オレのが、アンタを死なせた。提案の一つか、もしかしたら他にも。分からないんだ。もうその記憶は消えちまってる」

 モーテが私の足元を見つめる—これほど惨めな彼を見たのは初めてだった。

「その記憶……なあ、大将、オレは自分がヒューマンだったことすら思い出せないんだ。あの柱の前の人生が、どんなだったかも……」

 ダッコンが、遠くを見つめながら静かに話した。

「それは手に水を溜めるようなものである」

 モーテはダッコンをちらっと見て、そして私に視線を戻した。

「ああ、そうかもな。アンタが死ぬときは、まさにそんな感じだ。そんなふうに……忘れちまうだろ。こんなオレが立派な人物だったとは思わないけど……でも、一体誰なんだ?」

 モーテは再びため息をついた。

「ただ、仕方なかったんだ。いつでも誠実でいるなんて、最悪だろ。いいか、大将、あの頭の山がオレを見たら、取り戻そうとするはずだ。そんなのはダメだ!」

「待て……〈葬儀場〉では、どうして私のことを知らないと言ったんだ?」

 モーテは突然言い訳がましくなった。

「アンタが誰になるのか、分からなかったからだ! 以前のアンタは、正真正銘狂った狂人だったこともあった! 目覚めたアンタは、がアンタの頭蓋骨だと思いこんで、巨塔を何周も追いかけてきて、オレを砕いてむさぼり食おうとしたんだぞ……運よく、そのアンタは道を走る荷車に押しつぶされたけど。別のアンタは、オレを柱に押しこもうとした。『それがオレの居場所だから』ってさ」

 モーテはニヤリと笑った。

だよ。知られなきゃ、アンタから被害を受けることもないだろ……」

「どうやって柱から自由になったんだ?」

「それは……アンタがオレを引き抜いたんだ、大将。オレは必死に柱の前まで出てきて—知っての通り、アンタはここに来たことがあって—めそめそ泣いてわめいてアンタの注意を引いた。最期の日までアンタに従って知識を分けるって誓って、自由を懇願したんだ……それがどれだけ長くなるのか知ったのは、アンタがオレを引っこ抜いた後だったよ」

「それで、〈柱の叡智〉のすべてを……?」

「あー、それは……えっと、柱から出たらそこに蓄積された知識の大半を失うってことも、知らなかったんだ。それで神威かむいしたみたいにアンタを怒らせちまった! でも変わらずオレをそばに置いといてくれたよ。そのとき初めて、アンタに縛られてるって感じたんだ……アンタの魔術が、オレを使い魔か何かに変えたんだって思ってたけど、数百年たって、そんなもんじゃないって気づいた……もっと深いものだって。ただの恩義じゃなくて、地獄が関係してるようなもの。ただアンタに引き寄せられるように、なんだかつながってるように感じたんだ。たぶん、アンタの苦しみだよ、大将……苦悩だ。分からないけど。柱の中にいたときのオレになぞらえてたのかな」

「どれだけ長く私を知っているんだ、モーテ?」

「分からないよ。幾星霜、かな。毎回アンタが進むのをできる限り助けてたけど、でも……」

 モーテはため息をついて、浮かび上がって私と目を合わせた。

「ここまでやり遂げたことは、ほとんどなかったよ、大将。ほんとに、4、5回かな。今度こそ……何が起きてるのか、が見出すんだ」

 私はさらに一歩、柱に慎重に近づき、そして彼らの会話が不意に。柱の表面に並ぶ何十もの頭が、同時にゆっくりと私のほうを向く。彼らは黙って私を見つめ、その息の悪臭と湿気がふりかかる……そして、私の背後で縮こまっているモーテに気づいた。

 柱の表面のすべての頭が同時に喋り、は声を発した—恐ろしいゴボゴボという音が噴き出し、彼らの口から汚らわしい刺すような蒸気と、悪臭を放つ腐敗物が流れ出る。

「またか……だが、久しいな」

 多くの頭がまくしたて、よだれを垂らし、繰り返した。

「……頭蓋骨、頭蓋骨、頭蓋骨……」

 嬉しそうに唇をなめ、モーテを凝視しながら。

「どういう意味だ?」

「黙れ! お前に話しているわけではない、その頭蓋骨だ。よく戻った、小さきものよ。ついに同志のもとへ戻り、最終的な運命を受け入れ、再び聖なる務めを引き受けることにしたのだな?」

 柱の中心から頭がいくつか飛び出てきて、壊れた歯をきしらせ、泣き叫ぶ。

「そうだ、戻れ! 戻ってこい、頭蓋骨! 頭蓋骨……」

 モーテは恐怖に揺れ動き、歯がカタカタと音を立てた。

「オレは戻らないぞ、大将! 戻らない! 戻らない! 戻らない!」

「彼は戻らない。だが私は、いくつか質問があるんだ、〈髑髏の柱〉……」

「その臭い、強い臭い。次元界じゅうに広がり、すぐにベルが来るだろう」

「に……臭い? どういう意味だ?」

 頭たちの眼が眼孔の中でぐちゃっと回転し、フォール゠フロム゠グレイスを見つめた。

「その臭い……じゃこうの香り……タナーリの。ほろ苦い香気が伝わり、すぐにバーテズゥを引き寄せる。彼らの君主、ベルは怒るだろう」

 モーテが言い添えた。

「おお、そいつはマズい」

 頭たちは私に視線を戻したが、いくつかはまだ音を立てて臭いを嗅いでいる。

「我々に質問があるなら、急ぐことだ」

 いくつかの頭が目を細め、柔らかく喉を鳴らした。私に対して笑っているのだと思う。

「言ったように、私には質問が—」

 言い終える前に、柱の一部がうごめき、別の頭が表面ににじみ出てきた。不快なへどろがはがれ落ち、それがファロドの顔だと気づいた。彼は血まみれの包嚢を吐き出し、しわがれ声を出した。

「アンナ、愛しの我が子! お前なのか?」

「パパ! そこで何してるの?!」

 アンナが叫んだ。

 ファロドが喋るあいだ、他の頭は一時的にほとんど口を閉じていた……少数だけがアンナとその育ての親に邪悪な視線を送りながら、ささやいていた。

「球のこと、おれが間違ってた。十分じゃなかったんだ。おれが行き着いた場所を見ろ……お願いだ、愛しのアンナ! 哀れな父を救ってくれ! おれを救ってくれ! ああ、お願いだ、助けてくれ! おれをたす—」

 しかし喋りながらも、すすり泣くファロドの頭が〈柱〉の中心へと沈みこんでいく。

 アンナはまじまじと〈柱〉を見つめていた。目が細まり、拳が握りしめられ、尻尾が硬直する。おののく顔を、激怒と苦悶の混合物が塗りつぶす。

「アンナ、彼を助けられたらいいんだが。これは、誰にとっても悲劇だ」

 アンナはニヤリと笑い、つばを吐き、腐りゆく頭の山から顔を背けた。肩をすくめるが、私を見ようとはしない。

「問題ないわ」

「ファロドを愛していたんだろう、アンナ?」

 アンナは振り返り、瞳を怒りで燃やした。

「私のパパなのよ」

 彼女は歯をむき出しにした。

「憎んでたわ。パパが私の中に見てたのは、とんずらする方法、より多くの死体、より多くのジャラ、金庫に並べるより多くのがらくただけよ。『愛しのアンナ』『アンナちゃん、おれの金庫の中で一番貴重なもんだ』パパは嘘をついたわ。嘘をついて、それに心も体も弱かった。腐った死体の臭いと、死体をあさるハゲタカみたいな感じを漂わせてたわ」

 アンナは声を落としたが、瞳の中の炎は明るく輝いていた。

「それでも、私に優しさの欠片を見せてくれたのは、パパだけだった。これが聞きたかったわけ? もう満足したかしら?」

「十分だ」

 悪臭を放つ柱の頭たちがとどろいた。

「お前の取るに足らないお喋りには飽きたぞ。用件を話すがいい」

 頭たちは柱の表面をだらだらと動き、その恐ろしい声を発する前に、うなずき、ざわめいた。

「我々への質問を語り、そして我々の要求を聞くことだ—その答えに値するものを、我々に差し出すのだ」

「〈後悔の要塞〉にたどり着くにはどうすればいい?」

 頭たちはごぼごぼと音を立て、腐った唇からしわがれた声を返した。

「我々は、その質問に答えよう……」

「その頭蓋骨だ……捧げ物として、その頭蓋骨を要求する。彼を我々に返すのだ。さすればお前は、答えを得よう」

「オレをあの中に戻すな、大将。お願いだ!」

「くだらぬ抗議をやめろ、頭蓋骨! その選択は、お前のものではない!」

 柱の多数の頭がゆっくりと回転して私のほうを向き、目を細めた。

「彼はあまりにも長く運命を欺いてきた。彼は我々のものだ。お前が彼を返せば、その贈り物に対して親切を返そう……我々は彼の叫び声を味わいたいのだ……」

 他にはどんな“贈り物”が受け入れられるのか尋ねると、彼らはフュール・フォークト゠タングの居場所を求めた。しかし私は彼を裏切りたくなかった。たとえ彼が、デーヴァのトリアスに課された強い強制力によって従っていただけのフィーンドだとしても。頭たちは他に、リンボの実験にアクセス可能なモドロンの玩具を求めた。しかしそこにはまだモドロンたちがいて、柱がすぐに玩具を他のフィーンドと取引することは疑いようがない。玩具が使われれば、モドロンたちを裏切ることになってしまう。

 私は彼らに、他の贈り物を挙げるよう頼んだ。彼らはフォール゠フロム゠グレイスを求めた。彼女を生きたまま喰らい、彼女の血に浸かるために。それを断られると、次はアンナのフィーンドの血を求めた。もしこの多元宇宙において、柱が私に関する最後の知識の断片を持っていたとしても、そんな選択肢はあり得ない。

 同意できる柱の望みがあった。私の不死の血を味わうことだ。この要求に、私は同意した。

「なら、我々に近づけ……そうだ、近くに来い……」

 私が近づくと、頭たちは柱の中に引っこんでいくようだった……しかしさらに一歩近づいた瞬間、のたうつ表面が一瞬で目の前にあった。反応できないうちに、虫がたかった腐った肉と砕けた骨の波のように、柱が私に殺到した。悪臭の暗闇に包まれ、柱の頭たちが私を生きたまま喰らいはじめた……

 気がつくと、〈髑髏の柱〉の前に立っていた。うずく痛みを感じながら、いったい何が起きたのか、確信が持てなかった。しかし確かに言えることは、たった今被った苦しみによって、私の体が弱くなったということだ。グロテスクな頭たちが私にいやらしい目を向け、にやりと笑って舌鼓を打っている……私が気がついたことに気づくと、頭たちは私の質問に答えた。

「お前はすでに鍵を持っている。必要なのは、お前をそこへ導くポータルの場所だけだ。我々はポータルの場所は知らないが、鍵については教えよう。“後悔”だ」

 柱の頭の多くが涙を流し、うめき始めた。

「そうだ、後悔だ! 後悔だ!」

「後悔?」

「そうだ……〈要塞〉に侵入するためには、後悔を経験する必要がある。それをお前の肉体の断片に書け。さすれば、ポータルの通行は保証される」

「そしてポータルは……場所をと言ったか?」

「そうだ……道を知るのは三人だけ。最初の一人はお前だ……しかし今は忘れている。二人目はポータルの先にいて、出てくることはない。三人目は、お前はすでに出会っている。その者はお前の状態も、〈要塞〉のことも、そしてお前がそこにたどり着く必要があることも知っている……だが、その者がお前を助けることはない。その盾は、嘘と欺瞞という金色の金属でできている。単なる言葉では、両断することなどできない。お前はその者と、戦わなければならない」

「誰なんだ?」

 頭たちはしばらく沈黙し、ただ気取った笑みだけを浮かべていた。そして、とうとう口を開いた。

「お前はその嘘つきに、すでに出会っている—そして、それが初めてでもない。嘘つきは知っていた……だがお前に伝えなかった。不死の者たちのあいだの、取るに足らない裏切りだ……」

 腐敗した頭のいくつかが目を回し、忍び笑いをした。

「トリアスが?」

 私をこの無意味な使いに送り出し、フュール・フォークト゠タングを裏切っても何とも思わない、トリアス以外に誰がいるだろうか?

「おお、そうだ……だが我々は、彼をフルネームで知っている。〈裏切り者〉トリアス!」

 柱は歓喜に揺れた。私の苦渋を笑うかのように、腐った頭の山が前後にぐらつく。いくつかの頭が、からかうように繰り返す。

「裏切り者……裏切り者……〈裏切り者〉トリアス……」

「なぜ彼が私に嘘をつくんだ?」

「それに答えるのは、我々ではない。お前は自分で彼を捜し出し、問いたださなければならない」

「彼はどうやって知ったんだ?」

「かつて、はるか昔、お前が〈後悔〉への道を知っていたとき、トリアスはお前と言葉を交わした。お前は本心を打ち明け、そしてトリアスは—裏切り者たちの手口として—信用を築くために、よく聞いた。短い会話だったが、意義に満ちていた。お前が探していたのは、意義と死だ……普通の人にとっては別々のもの。だがお前にとっては……同一のものだ」

 まだ柱に答えて欲しい質問があった。そのためなら、さらに不死の血を与えても構わない。私は彼らに、殺人鬼について、私の敵について訊いた。

 不思議なことに、柱は黙りこんだ。いくつかの頭は単に目をそらし、他の顔たちは腹立たしげな表情で震えていた。やがて彼らは立ち直り、再び話しはじめた。

「我々は……知らない。かつてその知識を有していた頭は、破壊された—我々から取り除かれた。我々は、その質問に答えることができない」

 もう一つ質問があった。私は柱に、私が誰なのか尋ねた。その答えは、私に多くのことを示すだろう。受け入れる覚悟はできている。驚いたことに、柱はこれ以上私の血を受け入れることを拒んだ。しかし、では他にどんなものが許容できるだろうか?

 私は考え、そして一つの贈り物を思いついた。確実に、まあほぼ確実に、取り戻すことができるものだ。何と言っても、かつて一度そうしたことがある。私は柱に、モーテを受け取れと言った。恐ろしい事実だが、私は彼が仲間の中で一番の“捨て駒”だと考えたのだ。私はこれまで、彼を完全に信じる気になれなかった。加えて、一つの思考が意識からはい出てきていた。もしモーテが他の誰かのために動いているなら、もし隠された思惑があるなら、彼は柱に戻るよりはそれを認めるだろう。

 モーテは当然ながら、このアイデアを嫌った。〈髑髏の柱〉に警戒させずに、彼に計画を説明することもできなかった。

「ちょっと落ち着け……待て! 早まるな! そこの柱……オレはフュール・フォークト゠タングの居場所を教えられるぞ! さあ、知りたくないか? オレの代わりに、アイツじゃダメなのか? なあ? どうなんだ?」

 私もそれを考えてみたが、あのフィーンドを売るのは気が進まなかった。

「待て、モーテ。私たちはフュールを売り渡しはしない」

「な? 泡々あわあわなのか?! あのじゃなく、を売り渡すって?! アイツがアンタを助けたのは、縛られてたからだけだぞ、おい! はどうだ? 〈葬儀場〉から連れ出してやったのは誰だ、相棒? アンタがその〈何とかの要塞〉で待ってる何かに立ち向かうとき、隣に立つのは—あ~、浮かぶのは—誰だ?! なあ?! なあ?! 〈でか尻ファット゠アス〉のフュールじゃないことは、!」

「そうだ……」

 頭の山がのたうち、煮え立ちはじめた。頭が表面へと押し進み、沈みこむ前にうなり、わめく。彼らはよだれを垂らしてまくしたてた。

「奴の悲鳴を味わうのが待ちきれないぞ!」

 別の頭がわめく。

「悲鳴などくそったれだ! あんな忌々しい奴にはが一番だ! あいつの歯を引っこ抜いて頭蓋に吐き出して、赤ん坊のがらがらみてえに振り回してやる!」

 別の頭がわめく。

「おぉ! おぉ! そいつの眼を食わせろ!」

 私はモーテをつかみ、〈髑髏の柱〉に押しこもうとした。仲間たちは、誰も私の行動を信じられずに固まっていた。

 叫ぶモーテが中心へと沈みこみ、おそらく他の頭たちの“手”によって無限の苦悩を受けながら、〈柱〉の頭たちは邪悪な歓喜の高笑いとわめき声を上げた。騒乱が収まりはじめ、頭たちは互いにささやきあう。突然、モーテがわめきながら表面に躍り出た。

「アアァァァ! 出してくれ! お願いだ! お願いだ! もう嘘つかないって誓—!」

 ……そして出てきた時と同じように、すぐに内部に引き戻された。〈柱〉は私に答える準備ができたようだ。

ではない—何か、だ。お前は分かたれた。数多の男の一人だ—数多の男の中の一人だ。それぞれが—善であれ悪であれ—存在に影を投げかける怪物だ」

「おお、そうだ」

 柱の頭たちが目を細め、グロテスクに微笑んだ。

「“不死”よ、お前は死ぬごとに、影を投げかけている……お前が死ぬごとに、お前の代わりにのだ。その影は……彼らは集い、〈後悔の要塞〉でお前を渇望している。お前は何度死んだのだ、名を持たぬ者よ? せいで……何百人が……何千人が死んだのだ?」

 柱は邪悪な歓喜に身震いした。頭たちが顔を突き出し、あざけるように喉を鳴らす。私の死が影響をもたらしていることは感づいていたが、今最悪の事態を知った。私が死ぬたびに、罪のない人々が苦しんでいたのだ。この異常な状態を終わらせなければならない。さらに、でたらめな悲劇をもたらす死をできる限り避けなければならない。

「柱よ、言うべきことはそれだけか?」

 頭たちは突然笑いをやめた。

「いや。お前は多くの名前をまとっている。そのそれぞれが、お前の体に傷を残している」

「失われし者……不滅者……転生の果て……幾千の死……生き続ける宿命の者……休みなき者……数多の独り……生が幽閉たる者……影の運び手……傷つきし者……悲劇をもたらす者……イェメス……」

「お前はひび割れ……歴史を超えて散らばる水銀塗りのガラスだ。意義があるのは、欠片の一つだけだ。それを取り戻せば、お前の生は再びお前のものとなる。代償が必要だ。この代償がお前に機会を与える。機会がなければ、お前は滅びるのみ……」

「お前は人から分かたれざるものを失った。定命性がはぎ取られ……失われている。まだ存在はしているが、お前の心が完全に失われる前に、見つけなければならない」

 偏執的な私が、この言葉を日記に書いていた。いくつかはシギルの街路の下の墓で見た。そのすべてが、私の定命性に敵対している。私が柱の言葉を考えていると、恐ろしい叫びと共に、モーテが表面に暴れ出てきた。

「ギャァァアアア! 大将! 出してくれ! 頼む! 頼む!」

 私の手が飛び出し、柱の中心に沈みこむ前にモーテをつかんだ。頭たちが怒りに叫んだ。

「駄目だ! 駄目だ! やめろ! 彼を再び奪うなど、やめるのだ!」

 頭たちが私に襲いかかり始めた。残忍なギザギザの歯で、私の手を、手首を噛む……

 恐ろしい戦いを続けようとする柱を見て、私は後ずさるふりをした。モーテが沈みはじめ、柱が再び喋ろうとした瞬間に、躍り出てモーテをつかんだ。私がモーテを引き抜く前に食い下がってきたのは、頭一つだけだった……前腕に深く噛みつく頭の眼を親指で突き刺し、ついに旧知の仲間を救い出した。しかしながら、不潔な頭の噛みつきによって消耗し……以前よりも弱くなったことが分かった。

「ほらな、モーテ? 何も……心配は……いらないだろ……」

 柱の頭たちが歯をきしらせ、胆汁を吐きつけ、怒りにとどろく。

「彼は我々のものだ! 我々のものだ! 我々のものだ!」

 そして不意に落ち着いた。

「いいだろう。勝利にふけるがいい、“不死”よ。我々は何としても、彼を再び手に入れる」

 〈柱〉から知りたかったことはすべて知った。私たちは急ぎその場を離れ、背後では侵入者がいるぞと〈柱〉が大声で叫ぶ。叫び声に引き寄せられたフィーンドに襲われはじめた。幸運にも、この場所を離れるために必要なポータルは簡単に開き、ウル゠ゴリスの骸骨の下のフュールの隠れ家にすぐに戻ることができた。


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