巨大な骸骨の頭蓋骨の下に、地下へとつながる入口を見つけた。その中は、巨大な部屋につながる螺旋状の傾斜路だった。錬金術の装置が置かれた机が壁に並び、暖炉が奥から部屋を照らしている。そこには傷だらけでぼろぼろの片翼のフィーンドがいた。彼は机で働きながら、独り言をつぶやいている。
「蒸留しやがれ、尿瓶になりたくなかったらな! フェッ!」
傾斜路を下り続け、私たちの存在に、特にフォール゠フロム゠グレイスに気づかれる前に、底にたどり着いた。怒りと絶望が混じったフィーンドの声が、食いしばった歯のあいだから吐き出された。
「タナーリがおれの家に! なんて侮辱だッ! 薄汚ねえ同族も招いたらどうなんだッ?! フェッ! くせえタナーリの悪臭だ! 数リーグ先からも臭うぜ! おれの家を大事にしろよ! 臭いを落とすのに、煙か酸の蒸気でも探してきてくれねえか? フェッ! このタナーリ臭はもう取れねえぜ。次元界じゅうからバーテズゥを呼び寄せちまう」
グレイスをかばってモーテが反論した。
「彼女の匂い、オレは好きだよ。可愛らしいからね」
フュールは頭をぐるりとモーテに向け、そしてグレイスをよく見た。
「おお、こいつはただのタナーリじゃねえ。タナーリの売女がおれの家に上がりこむたあ……これ以上悪くなりようがねえな。さあ、入れ入れ! くつろぎな!」
彼はやけになって手を振った。
「おれを苦しめるために、アビスのハーピーの残りも招いたらどうなんだ?」
「ご挨拶申し上げます、
グレイスがわずかに頭を下げた。
「あなたのご提案も、検討はいたしましょう」
「おれを殺しに来たのか?! 苦しめに来たのか? そうなら、まだおれにも自由に使える力があるってことを知っときな!」
そろそろ会話を制御する時だろう。
「お前を殺しに来たわけではない」
「フェッ! そうかよ、そうかよ! 殺したり痛みを加えようとするんじゃなけりゃ、苦悩はもっと名状しがたいものだろうな……散々痛みつけられるより、よっぽど恐ろしいぜ」
私はフュールとデーヴァの関係に興味をひかれ、トリアスについて訊いてみた。
「フェッ! もともと
「それで……たった一つの過ちで、すべてがおじゃんだ! すべては適当、混沌、偶然のせいだ。なのに下等種族どもは、なんでバーテズゥは多元宇宙の秩序を望むんだと疑問に思いやがる」
彼は怒りにしゅうしゅうと音を立てた。
「あのデーヴァは嘘をつきやがったんだ。やつは
「やつが死ねば契約は終わる……だが見つけられなかった。それに見つけたとして、どうやって傷つければいいってんだッ?! どうすればいいんだ? こうやって裏切ろうと考えるだけで、心が痛みに燃えるんだ。おれは独善のお手本だったに違いねえな。近視眼的な欲望の代償は、栄光ある悪だくみ日々と、この善意の下水口に葬られたことだ。ベェッ」
「それで今おれは、援助が必要なやつらを助ける善行の呪いにかかってる。フェッ! トリアスの永遠の呪いだッ! やつの祝福されし手助けに梅毒あれ! マラドミニのクソ山すべてが、やつの頭に降り注げ!」
彼はそのまましばらくわめき続け、そして私に注意を戻し、食いしばった歯のあいだから喋った。
「あのデーヴァとの契約が、てめえのために何ができるか尋ねるよう命じてやがる」
しかしながら、フュールに関する質問はまだ終わっていない。そして私は、トリアスに関して湧き上がった疑問に悩まされながらも、彼とトリアスとの契約が彼に回答を強いていると聞いて安心した。
「その翼はどうしたんだ?」
「おお、そうだ。美しいだろう……? フェッ! 追放の前に、最初におれからはぎ取られたもんだ。燃える広間から逃げなきゃならなかった時に、卑しいアビシャイに〈流血戦争〉の戦利品として奪われたんだ。角は頭蓋骨からもぎ取られてくりぬかれて、次元界じゅうで呪われてる君主ベルの杯にされちまった」
「〈流血戦争〉について話せることはあるか?」
「フェッ! 無知の山からの落石に、頭蓋骨をぶつけまくったのか? 下方次元界は〈流血戦争〉で荒れ狂ってるだろうが。この争いの影響がねえ次元界なんてねえ。想像できる限り一番ひでえ戦争を思い浮かべろ。その時間と規模を10億倍にすりゃあ、下方次元界の戦場の欠片ぐれえにはなる。多元宇宙の一番基本的な概念を定義するための、イデオロギーの戦争だ!」
「戦争は研究に刺激を与えるもんだ……〈流血戦争〉のために、とんでもなく恐ろしい生物が創り出された。なぜだ? 苦痛と死と邪悪のためだ。タナーリは混沌と悪のために戦いやがる……暴力と突然の気まぐれと、憎悪の混乱による悪だ。やつらの“悪”は群れの悪、渦巻く悪の数の暴力だ。やつらは殺し、略奪しやがる」
「それで、もう一方は?」
「バーテズゥは、厳しく統制された悪を望んでる。厳密で秩序だった方法で、その悪の主張を広めてるだけだ。タナーリのは殺人。バーテズゥのは偉業だ。タナーリとバーテズゥは、互いを根絶しようと決意してんだ」
「職務の一部は……おれは腕利きだったんだがな、新兵を徴兵することだった。大半は他の世界からの次元戦士と次元魔導士で、飼料か戦争の前線部隊として役立ってたぜ。噂じゃ君主ベル自身の目にも留まってたらしい。やつさえおれの価値が分かってたんだ! フェッ! 今や屈辱まみれだ」
「私に見覚えはあるか?」
彼は初めて私をじっと見つめた。
「人間もどきさんよお、記憶はおれの心の中を、虚ろな渓谷みてえに流れてんだ。不死者の時の中で、たくさんの生き物に出会った……だが、てめえはその中にはいないようだぜ」
フォークト゠タングは肩をすくめた。
「てめえはおれとうり二つだな……その体の傷は、覚えてるような気がするぜ……バートルのベルの〈皮膚の画廊〉に飾られた、生きた絵画にそっくりだ。傷の筆致に優雅さがなくて、情熱的ってこと以外はな」
「暴力の量的には許容レベルにちけえが、粗野なタナーリがやった傷みてえに、苦痛を最大化させるための丁寧さがねえ。バーテズゥの芸術家は、体をめぐる痛みの道にもっとずっと献身的だぜ。綺麗な殺しの傷もあるが、他のは目の見えねえ肉屋がヒューマンのステーキを切り分けたみてえだ。フェッ。ヒューマンの芸術には気が滅入るぜ。ポテンシャルが台無しだ」
「
グレイスは困惑しているようだ。
「フェッ! タナーリが粗野だってのは、粗野って言葉に失礼だぜ。混沌にふけって、よどんだ潮流に溺れて、それを“悪”だなんて言うような下等種族は種族なんかじゃねえ。獣だ」
「あなたは単純に、悪の程度よりも、悪の履行に異を唱えられているようです。タナーリの多くは、悪の根本的な本質に近い者こそ理想に近いのだと主張することでしょう」
グレイスは彼と議論を続けた。
「フェッ、重ねてフェッだッ! タナーリの獣どもは、悪の顔から法と秩序をはぎ取ろうとしてやがる! 言語道断だ! 耐えられねえ! おれは——」
「バーテズゥの視点からは」グレイスは言った。「確かに耐えられないかもしれません。しかしながら……タナーリの哲学者の多くは、暴力から情熱を切除することを、悪の真髄から情熱を切除することを、バーテズゥが許されることはないと主張するでしょう。バーテズゥは怒りを、冷たく整然とした残虐性に置き換えてしまいます。こうして長年の議論は続くのです。効率的な悪か、それとも情熱的な悪か、どちらが大いなる悪なのでしょうか?」
「フェッ! てめえがそう言うのは、ただ……てめえがてめえであるからだ」
彼は見下げるように手を振った。
「少なくともおれはまだ、シニカルであることを許されてるぜ」
「この場所はどこなんだ?」
そう尋ねて彼の注意を引き戻した。
「フェッ。おれの生の無意味さと空虚さを反映する、アウトランズにある忌々しいクレーターだ。フェッ。必要なことは少ねえぜ。上の生き物の骨髄が食料になるし、この場所の妙なエネルギーが、愚かな水晶占い師に見つかるのを防いでくれてる……ここにたどり着ける馬鹿どもが、まだいるみてえだがな」
「あの骨格は何なんだ?」
「ゴリストロの始祖、ウル゠ゴリスの骸骨だ。クマみてえな生きた攻城塔、混沌のジャガーノート、巨大で魔法に高い耐性を持ってて、誰にも止められねえ……そしてウル゠ゴリスの骨は、そいつが倒れたクレーターの中で、おれを探ろうとする魔法を防ぐ魔力を放って、この哀れな体を少しだけ生かしてくれてるのさ。フェッ!」
私は前置きに十分な時間をかけたと判断し、盗まれた定命性について知っていることを尋ねた。
「けっこう、けっこう」
彼は頭をかいた。
「記憶が正しけりゃ——あのデーヴァのせいでそんなことは珍しいがなッ!——てめえみてえな事例を聞いたことがあるぜ。それで不死になってんだろ?」
私がうなずくと、彼は続けた。
「それなら、死自体がもう神聖じゃねえってこった。フェッ。おれの時代には、定命者は身の程を知ってたんだがな……今じゃ誰も彼も母親も、永遠の退屈って病にかかってやがる。次元界じゅうから人を集めて、不死の契約を申し出るべきだぜ……おれたち勤勉なバーテズゥの労力が、ずいぶん減るはずだからな。フェッ」
「知っての通り、誰も彼も不死になったら、
私は彼に、私の定命性について知っていることを話すよう促した。
「フェッ……言った通り、〈後悔の要塞〉って呼ばれる場所について、聞いたことを思い出した」
彼は少し考えこんだ。
「ああ……そうだ、それだ」
「その場所について何を知ってるんだ?」
「喜んで教えよう。何も知らねえってことをな。何もだ! てめえがそこに行く助けもできねえ。喜びで心が冷えるぜ。おれは、お前を、助け、られねえ。おお、どれだけこの言葉を言いたかったことか。なんて甘い——」
「その場所について知っている者は誰か知らないのか?」
「ハァ? 反対尋問はもううんざりだ! ああ、ああ、知ってるかもしれねえ
「バートルにはどうやって行けるんだ?」
「待て、大将……」
モーテが突然割りこんだ。
「バートルってのは
モーテの言葉に、突然彼に対する疑惑が浮かび上がった。モーテがいくつか嘘をついているのは知っていたが、彼が隠すことを選んだことは、少なくとも私に対しては無害なものだと思っていた。今の彼は、私が必要とする答えがあるかもしれない場所に行くことに、反対している。
「なぜそこに行きたくないんだ、モーテ?」
「危険な場所なんだよ、大将。できれば行きたくない。行ったことがあって、愉快な場所じゃなかったんだ。分かるだろ?」
何も答えになっていない。モーテについては後で考えることにして、今はフュールから情報を手に入れる必要がある。〈髑髏の柱〉とは何か尋ねた。
「フェッ……何かって、巨大な頭の山さ。嘘で誰かを死なせたやつらの魂が、そこに行くんだ。賢者どもと詐欺師どもが、次元界の広い知識と共に転がりこむ場所だ」
そこに行く方法を訊いた。
「この家の外にポータルがある。巨大な骸骨の手の中だ。骸骨の左腕でできたアーチをくぐれば、〈髑髏の柱〉のところに行けるぜ。ポータルはすぐに起動するはずだ」
帰り方についても尋ねた。
「ハァ? 帰り方? 考えてなかったぜ。バートルから戻るには知識と、てめえの舌を切るためのギザギザの黒曜石の欠片が必要だ。知識については〈柱〉から得られるだろうな。だがここに戻ってくる理由はねえだろ。それにおれは、またてめえに会いたいとは思わねえ」
先に進む前に少し休憩が必要だと判断した。そこでフォール゠フロム゠グレイスと話す機会があった。
「ラヴェルの〈迷路〉で、彼女はお前が苦しんでいると言っていた……そうなのか?」
フォール゠フロム゠グレイスは、しばらく黙っていた。彼女の視線が遠くなる。私に向き直った時、その瞳には奇妙な空色の陰りがあった。その陰りが、悲しみと涙を伝えている。
「ラヴェルさんはあの黒い
彼女はゆっくりと頭を振った。
「ときおり……ときおり、痛みが顔を出すことがあります。わたくしは、本質に背くことが難しいことであると学びました」
「いつかは大丈夫になるのか?」
「ええ……お優しいのですね。痛みは顔を出しますが、わたくしは何世紀も昔に、自分の本質と折り合いをつけましたから」
「よかった、そ——」続ける前に、グレイスが私を止めた。
「わたくしの健康をお気遣いいただき、ありがとうございます。あなたの心配は、ありがたくないものではありません」
グレイスは
先に進む時だ。他の仲間たちを集め、一緒にバートルへのポータルを通り抜けた。