プレーンスケープ トーメント 非公式小説

カースト

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 アンナが部屋に入ってきた。カーストの散策と情報収集を終えたのだ。私が部屋にいるのを見て彼女の唇に笑みが広がりはじめたが、視線がダッコンをとらえると口がへの字に変わった。彼女はカーストについて学んだことをぶっきらぼうに話した。

「ここじゃ誰も信用しちゃダメよ。いい?」

 そして彼女は出し抜けに私を部屋から追い出した。

 次の日、モーテと共有の部屋で目覚めた。彼はすでに起きていた。これは驚くことではない。彼はほとんど睡眠を必要としないようだ。私が目覚めたのを見た彼は、私のほうに上下しながら飛んできて、心配そうに助言をくれた。

「大将、ここじゃ背中に気をつけろよ、オーケー? この場所じゃあ、いつ襲われても不思議じゃないんだ」

 私たちは宿屋の広間で集合し、食事を取った。グレイスが私に言葉をかけたが、それは明らかに全員に向けた言葉だった。

「カーストは、言葉と行為の両方の裏切り者であふれている監獄街です。わたくしたちは、互いに注意し合う必要があります」

 ノルドンも何かアドバイスがあるかと彼を見たが、周囲のことを気にかけているのかも分からない、いつも通りの態度だった。

 昨晩は宿屋の人々と話さなかったが、今はカーストに関する情報を集める必要がある。私は談話室に入り、バーの後ろに立っている男に近づいた。やつれた残忍そうな男だ。粗野な顔は筋張って乾燥し、目は赤色でふち取られている。私を見た彼は、姿勢を正した。

「〈反逆者の門〉にようこそ。俺はテインテト・バース、この宿の主人だ」

「どんな名前だ?」

 私は機嫌がよくなかった。ラヴェルは、答えるよりも多くの疑問をもたらした。まだ敵に関する情報もなく、そしてラヴェルはもういない。私がしくじれば、未来の私はもう彼女に質問することができない。宿屋の主人は、私の質問を良いほうには解釈しなかった。彼は私をにらみ、答えを吐き出した。

「『会陰バース』は与えられた名前だ、与太者よたもん。それで元友人が根も葉もないうたいを広めて、『汚れたテインテト』が後からついた」

 彼は必要以上に腹を立てているように見える。

「それで、いったい何の用だ? 冒険者か何かなのか?」

「なんだ? どうかしたのか?」

「どうかしたかと言えば、俺の娘が奴隷商人に誘拐されて、ここは支払いが滞ってて、第一輪の金持ちのぶっし野郎どもに居場所を奪われそうだ」

 彼は顔を近づけて私を見た。

「お前はデーヴァについて尋ね回ってるやつだろう? 望みを言え。お前が俺を助ければ、俺もお前を助ける」

「デーヴァについて、何を知っている?」

 私が訊くと、彼は抜け目なく微笑んだ。

「あいつを探してるんだろう? 俺はお前に、あいつは牢獄の地下深くに隠されてると教えられる。そこに行く方法も教えられる。捕まったり賄賂を使ったりする以外の方法でだ—どっちみち、そんな方法じゃ上手くいかないがな」

「向こうに行ってマルケスと話せ。元ハーモニウムだ。あいつが奴隷商人について知ってる—それに、お前をデーヴァに導く最初の鍵も持ってる。鍵は五つに分かれてるんだ。物理的な鍵じゃないがな。鍵を集めたら、俺のところに来い—それで俺の頭の中の知識を打ち明ける。だがそれまでは、秘密をもらすな。さあ鍵の持ち主を満足させに行け」

 さしあたり、同意しても構わないだろう。彼が真実を語っていると仮定して、娘を救い出すことに問題はない。そして街を探し回っているあいだに、デーヴァにたどり着く別の道が見つかるかもしれない。私は彼に、この街で何が起きているのかを訊いた。

「この場所が何かと言えば、流言と皮肉の温床だ。誰も他人を信じない。確実に自分に借りがある相手以外には手を貸すな。皆が皆を憎んでて、皆が皆に対する影響力を欲してる。お前のようなやつは……食べごろの標的だ。ここでの駆け引きを知らないわけだからな。確実にだまされるだろう」

「へッ。いつも通り、最近もトラブルだらけだ。最初は牢獄を広げるために地面に穴を掘り続けてた—それであのデーヴァを見つけたんだ。でかい黒曜石の泡に包まれて、床につながれてた。皆はそいつの剣を奪って、囚人を檻にとどめとくためにその力を使った。それであのセレスチャルをどうするか、議論ばっかりしてやがる。どうやってこの発見から利益を得るか、どうやって“友人”をだますか思いつこうと髪をかきむしって……それで疫病に襲われた」

「疫病。ある意味では皆をおとなしくさせるもんだな。怒りっぽくなって気難しくなって—何もできないほど弱っちまう。衛兵は街の一部を封鎖した。あいつらはひどくピリピリしてる。近頃じゃ、ちょっとした口実で刑務所にぶち込まれちまう。お前がどうやって街に入ったか知らないが、ポータルを見つけずに出るのは無理だろうな」

 私はマルケスと話した。元ハーモニウムの士官の、たくましいブロンドの男だ。彼は奴隷商人たちの居場所を教えてくれた。彼らはハーモニウムのメンバーらしい。彼が助けようとする理由は、以下のようなものだった。

「私はハーモニウムが—初めは信用していたグループが—人を買い、誘拐し、意志を奪い、人生を破壊していると知った。人々から生を奪い、別のものに変えてしまう。私はもう耐えられない。お前が戦おうとしている奴隷商人は、私のかつての同胞だ」

 彼は床につばを吐いた。

与太者よたもんだ。嘘つきだ。もう誰も信用できない」

 ハーモニウムの奴隷商人を見つけるのは難しくなかった。この街は明らかに、彼らが活動を隠す必要性を感じないほど腐敗している。彼らは簡単に倒すことができた。宿屋の主人の娘を解放して〈反逆者の門〉に送り届けたことで、マルケスから最初の鍵となる言葉を手に入れた。彼は私に、二番目の鍵を手に入れるために話すべき人物、キトラを教えてくれた。

 背が高く、印象的な女性だった。彼女は私に、鍛冶屋のクランプルパンチと蒸留酒製造業者のケスターのあいだの遺産相続問題の解決を求めた。彼女はどんな解決策もいとわなかった。彼らの死さえも。なぜそれほど必要なのかは分からなかったが、彼女の要求に同意した。

 反目する二人の男と話した。クランプルパンチは教育水準が低く、相続問題を部外者に解決させることを喜んでいるようだった。彼は父親が書いたしわくちゃの上質皮紙を私に渡した。ケスターはしぶしぶだったが、なんとか私が調停することを認めさせた。彼もまた、父親によって書かれた文書を持っていた。文書は分かりにくく不明瞭だったが、私はそこから見出したことに基づいて、兄弟のあいだで遺産を分けた。クランプルパンチは満足していたが、予想通りにケスターはそうではなかった。

 キトラのところに戻ると、彼女は二番目の鍵を渡し、三番目の鍵を持つナバトを教えてくれた。彼は十分に友好的で、ごろつきのグループがカイス(街のごみ捨て場の管理人)に暴力を振るい、金を奪うのを防ぐよう求めた。それがなぜ彼にとって重要なのか尋ねると、彼は別の質問で答えるだけだった。

「それは本当に重要ですか? 彼は祖父だと言ったら? 彼を襲おうとしている人々に復讐ふくしゅうしたいのだと言ったら? その金が欲しいのだと言ったら? 動機は問題でしょうか? あなたは望むものを—鍵を—手に入れ、そして私は何かを手に入れるのです」

 ごみ捨て場を見つけるのは簡単だった。そこでごみの悪臭を放つみすぼらしい老人に会った。彼はなぜかこの街の大半の人より元気なようで、この場所にまったく属していないかのように活力に満ちていた。私が近づくと彼は視線を上げ、背筋を伸ばした。

「カイスに会いに来たのか? 知恵と正義の物語を耳にしたのか? 見習うべき手本にするために?」

 誰なのか尋ねた。

「わしはカイス、街のごみの管理人だ。街の住人のごみに気を配り、そして隠喩的に、かなりの数の魂が流れてくるのも目にしてきた。人々に善をうながす声であり—そして残念ながら、彼らはわしを無視するのだ」

 私は彼を脅しているチンピラについて尋ねた。

「ワーネットという男だ。ろくでなしのリーダーで、罪の収集家だ。やつはわしに、わしが金を持っていて、やつに渡すべきだと言いおった。だがわしの富は、心と信仰の中にしかない。そう言ったが、信じておらんかもしれん。行ってやつを説得してくれ。お願いだ。やつは南側のインナーカーストの、荷馬車の近くにおる」

 ワーネットと話そうとしたが、当然ながら、彼は耳を貸さなかった。しかたなくワーネットとチンピラを成敗し、ごみ捨て場送りにした。カイスはカーストで他人に命を救われたことに仰天していたが、私は彼を助けられて嬉しかった。

 ナバトのところに戻り、三番目の鍵を手に入れた。私が仕事を終えた今、彼はカイスを脅していたギャングに復讐ふくしゅうしたかったのだと認める気になっていた。カイスが金の蓄えを隠しているという噂を広めたのも、彼だった。

 私は次の鍵の持ち主であるダランと話した。肩まで届く黒髪と刺すような青い瞳の、背の高い男だ。彼からは、街の指導者であるアニッジウスという名前のギスヤンキが関わる状況を……解決するよう頼まれた。しかし彼は、どんな結末が望みなのか話すことを拒んだ。

 アニッジウスは、牢獄次元界カルケリへのゲートの近くで見つかった。彼は敵であるシャブハという女性に濡れ衣を着せることを要求した。シャブハの言い分を聞くために、彼女とも話した。彼女は私の言葉にほとんど耳を傾けず、アニッジウスを裏切れば彼の二倍の金を払うと即座に提案してきた。

 私はカーストで浴びせられる裏表のある言動にうんざりして、街の衛兵の隊長に、アニッジウスとシャブハの両方が互いに罪をかぶせようとしていると伝えた。彼は私の証言を熱心に利用して、二人を逮捕した。市民の責任意識からではなく、それが彼自身のさらなる計画に役立つことだったからだ。

 ダランのもとに帰ったとき、なぜアニッジウスに興味があったのか訊こうかとも考えたが、やめておいた。間違いなく、個人的な利益のための陰謀だろう。私はすでにカーストに心からうんざりしていて、立ち去るのが待ちきれなかった。彼の鍵を手に入れ、最後の鍵の持ち主に取りかかった。

 ドーノ・クイショは、背が低くふくよかな赤毛の女性だ。彼女の要求はシンプルだった。巻物を使って五芒星にフィーンドのアグリル゠シャナクを召喚し、そして解放することだ。私は彼女の指示に正確に従うことにした。

 五芒星は古い穀物倉庫にあった。そこでドーノ・クイショの巻物を使い、アグリル゠シャナクを召喚した。そして仲間に、このフィーンドを攻撃するよう指示した。攻撃する時に五芒星の一部がすれて、フィーンドを五芒星から“解放”した。私たちの攻撃はフィーンドにとっては不意を突かれた状況で、すぐにフィーンドをその体からも解放した。恒久的に破壊できたとは思えないが、しばらくは誰かを悩ますことはないだろう。

 ドーノ・クイショはフィーンドを殺したことに憤慨したが、それでも彼女は自分の言葉に縛られていて、五番目の鍵を明け渡した。私は宿屋の主人バースのところに戻り、五つの鍵を伝えた。

「正義の神はかかる場所ところを設けたり、背ける者の為め……

 ここ天外の闇、彼等の獄舎を置き……

 ……運命を定めたり……

 天の光と神を去ること宇宙の極より……

 ちゅうに至る三倍のところにて」

 バースが秘密の通路を開き、私たちはカーストの地下へと降りて行った。


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