私たちが出現したのは、明らかにシギルではない都市だった。頭上には湾曲した街ではなく、灰色の空がある。周囲の建物は石と錆びた金属でできていて、乾きひび割れた道の泥から、頻度は低いが激しい豪雨が降ることが察せられる。私たちがいるのは壁の閉じた門の近くで、退屈そうな衛兵二人がこちらを見ていた。
衛兵の一人のほうを向き、この場所について訊くと、彼はカーストだと答えた。アウトランズの境界近くの街だ。他にこの街について話せることはないかと尋ねると、彼はそっけなく答えた。
「今は疫病で封鎖されてる。原因はわからんが、わかるまで街の一部は隔離してる。他には?」
「責任者に会いたいんだが」
「なんだ、
ラヴェルが言っていたデーヴァの噂はないだろうか。そんなことを黙っているのは難しいだろう。
「デーヴァを探している」
「なら〈大いなる転輪〉の反対側を探してるぞ、
私は背を向け、宿屋を探した。ここは夕暮れが近づいているようだ。そしてラヴェルの〈迷路〉の出来事の後で、私たちは休む必要があった。幸運にも、宿屋はほんの数歩先にあり、私たちは部屋を取った。
宿屋で落ち着いた後、ダッコンの部屋を訪ねた。彼はアンナと部屋を共有しているが、彼女はカーストの偵察に出ているため、彼とだけ話すことができる。
私はダッコンが持つゼルシモンの
弐の輪を調べていると、蜂起を実現するためのギスたちの労働について書かれたプレートに、奇妙なつなぎ目があった。そこから新たな輪があらわれ、開いてプレートを引き上げると七番目の輪が見つかったため、読みはじめた。
『〈イリシッド〉に対する我らの種族の蜂起は、数多の
『蜂起はゆるやかな基盤の上で形作られた。〈イリシッド〉の肉体に跡をつけるための鋼が集められた。〈イリシッド〉の動きを識る方法が確立された。初めは混乱の中で弱々しく、その後力強く、幼子が自らの声を見つけるがごとく。〈イリシッド〉は動きを識られ、観察された。観察されたことで、彼らの心の在り方が識られることとなった』
『〈イリシッド〉の在り方が識られた時、我らの種族の多くが集められ、心を守る方法を、意志の力を武器として制御する方法を、秘密裏に教えられた。彼らは鋼の聖典を教えられ、そして最も重要なことに、自由の
『これらのことが、即座に学ばれることはない。多くの在り方の
ダッコンはそのあいだずっと、黙って私を見ていた。私は七番目の輪を見つけたことと、その内容を話した。
「これは時のことを、敵ではなく味方として語っている。たとえわずかな努力であっても、帝国の心臓を打つことができる武器を、忍耐によって研ぐことができる。その勝利は小さいかもしれないが、時と共に、大きな勝利を達成することができる」
ダッコンはしばらく沈黙し、そして口を開いた。
「この輪を、儂に識らしめてもらえぬか?」
私は彼に、七番目の輪の開き方を見せた。そこにはギスゼライの“呪文”が書かれた二枚のプレートもあった。ダッコンは私が渡したプレートを見つめ、そして視線を私に移した。
「お主が輪について識ることとなったことは多く、お主の
ダッコンが私と目を合わせる。
「お主の道は儂の道であることを識れ。そしてお主が儂からゼルシモンの
私はさらに輪を調べ、隠された文章を探した。輪が形作られるパターンに不意に気づき……輪の横に指を引っかけて隠された箇所を開き、プレートを引き出して調べた。
『分かたれた心が人を分かつことを識れ。意志と手は一つでなければならない。己を識ることで、人は強くなる』
『心の中に真実たる行動の指針を識っているならば、それを裏切るなかれ。その道は、苦難へと続いているからだ。苦しみなくして蜂起は起きず、我らの種族が自らを識ことはないと識れ』
『団結に敵うものなど、この世に何もないと識れ。皆が一つの目的を識り、皆の手が一人の意志に導かれ、皆が同じ意図のもとに行動すれば、次元界そのものさえ動かせよう』
『分かたれた心は、己を識らぬものなり。心が分かたれれば、体は二つに裂ける。単一の目的を持てば、体は強くなる。己を識り、強くなれ』
この八番目の輪で学んだことを、ダッコンに話した。
「ここには集中と修練のことが書かれている……自らを識らないことが、どのように人を物理的に分かつのかについて。そして分裂が生じた場合の弱さについても。自らを識ることによって強さを得ることだけではなく、集中することで敵の中の弱さが明らかになることも伝えているようだ」
そしてダッコンに八番目の輪の開き方を見せ、再び“呪文”のプレートを二枚得た。私はダッコンの黒い瞳を覗きこんだ。
「ここに二枚のプレートがある……お前と私は、両方ともこれを学ぶべきだろう。
ダッコンはプレートを見つめた。彼の視線がその幾何学模様の上をひるがえり、そして彼は顔を上げ、私と目を合わせた。彼の刃が曲がり、転じ、これまでのきらめきが銀の輝きへと変わった。彼は強くなったようだ。
「死がお主のもとへ来たときは、儂も刃を交えると識れ。お主の周囲の皆が死んだときは、儂がお主のために生きると識れ」
「ダッコン、私たちが死ぬとき、それは同じ死によってだ。それが〈二つで一つの死の宣告〉だ」
私はこの生でついに価値あることを成し遂げたと感じた。ダッコンはもはや苦しむ奴隷ではない。まだ自身の言葉に縛られてはいるが、今の彼は自分を私の仲間だと考え、誓いがなくても共に旅を続けてくれるだろう。