プレーンスケープ トーメント 非公式小説

些事を終える

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 公共感覚器館こうきょうかんかくきかんは興味深かったものの、何にもならなかった。いくつかの用事を済ますために、〈知的な欲望を満たすための売春宿〉に戻ることにした。

 ジュリエットを見つけ、恋人を嫉妬させる計画が大失敗に終わったことを手短に説明した。私は彼女に、彼との関係について率直に話し合うよう提案した。彼女はやってみると約束したものの、どうなることやら。

 ドローラを見つけ、文字通りの心の鍵を渡した。創造主であるメリマンから、魔法の構造物であることなど、彼女の本質をいくつか学んでいた。私は彼女にさらなる情報を求めた。

「私の構造について、メリマンはほとんど話しませんでした。自分の体の内部の働きについては、あなたと同じように、あまり知りません。しかし外見上は、あらゆる点でヒューマンの女性です……手触りと体温を除いては。これで好奇心は満たされましたか?」

「お前の心については、感情についてはどうなんだ?」

「その機能は私にとって、あらゆるヒューマンと同じように、謎です。最初にこの場所に来た時は感情を理解できず、自分の感情を持ってもいませんでした。今は……感じます……まだ理解しはじめたばかりですけれど」

「その鍵は一体何のためのものなんだ?」

「確かなのは、メリマンが研究に飽きる前に私が離れるおそれがないように、この鍵を作ったということだけです。これを手に入れた今、私は自由に自分の感情を育むことができます」

 その後、無口な娼婦について何か知っているか尋ねた。彼女はこう答えた。

「ええ。彼女の名前はエコーです。彼女の声は—実際は、あらゆるコミュニケーションの手段が—盗まれ、破壊されました。かつてエコーの言葉が、神族のパラミーシャの情夫をそそのかしたことがあるのです。パラミーシャは嫉妬に激怒して、エコーの声を引き裂いて水晶瓶の中に封じこめ、メゴガラムドラガの胃に投げこみました。エコーの声は永遠に失われ、別の新しい声だけが、彼女のコミュニケーション能力を取り戻すことができるでしょう。私はパラミーシャの情夫と話したことがあるので、このことを知っているのです」

 次にエコーのところに行き、彼女が喋れないのは声が盗まれたからなのか訊いた。うなずく彼女に対して、骨董店でフィーンドの舌を、彼女を念頭に手に入れたのだと明かした。それを使えば喋る能力を取り戻すことができると言われたことと、彼女の口の中に入れる必要があることを伝えた。そして私を信じて試してみるよう頼んだ。

 彼女はうなずき、瓶を受け取った。切断された舌を塩の溶液から慎重に取り出し、しばらく嫌そうに見つめた後、口の中に置いた……突然彼女が目を見開き、唇のあいだから赤い光があふれ出した!

 心配になって大丈夫か尋ねると、エコーは口を開き、閉じ、再び開き……そして喋った!

「私……また喋れる! ああ、嬉しいわ! ありが汝、漆黒の闇に落ちるがいい、悪臭まみれのうじ虫が! 我にひざまずき、懇願せよ、虫けらめ!

 モーテが叫んだ。

「うわ!」

 エコーは悲鳴を上げ、両手で口をふさいだ……狼狽ろうばいに目が見開かれる。

「フィーンドの舌に……違いない……」私は言った。

 彼女はゆっくりと手を下ろし、うなずいた。

「きっと私は汝の脆弱な殻を食い破り、魂を永遠にアビスに委ねてくれよう! 次元界が停頓するまで、戦いの奴隷として仕えるのだ! 汝は我のものなり! 我の、我の—」

 エコーは再び口を閉じ、静かに泣きはじめた。

 私は骨董店の別の商品をひとつ思い出し、助けとなる物を手に入れてすぐに戻ってくるとエコーに伝えた。当然ながら、店に戻った私のニーズを感じ取ったヴリスチカは値段をつり上げた。どうしようもなく、言われたとおりに払うしかなかった。

 〈売春宿〉に戻って再びエコーを見つけ、こう言った。

「この〈デーヴァの涙〉を使ってみてくれ……舌の呪いを和らげることができるはずだ」

 彼女はうなずき、微笑んで瓶を受け取った。そしてきらめく青い雫を舌に置いた。

「涙が……効いてるみたい。ええ……効いてるわ! もう一度自分の声で話せる—ああ、本当にありがとう!」

 エコーは私の手をつかみ、深々と頭を下げた。その目には喜びの涙があふれていた。

 喜びが大きすぎて、彼女が再び話せるようになるまで数分かかった。ようやく落ち着いた彼女は、こう言った。

「ええと……あまりにも長く喋れなかったの。私のところに来るお客さまの大半は、話を妨げずに傾聴してくれる相手を求めてたわ。もう一度喋ることができるようになった今、先へ進む時が来たのかもしれないわね……〈売春宿〉を離れて、感覚者かんかくしゃになるの」

 ラヴェル・パズルウェルのことを知っているか尋ねた。エコーはうなずき、声を落とした。

「実は……彼女の存在だけじゃなくて、子供がいることも知ってるわ!」

 大声を出しそうになった。

「何だって?」

「子供の一人はここにいる……ケサイ゠セリスよ。彼女はラヴェルの子供なの、その事実を受け入れるのをひどく嫌がるけど。誰も彼女を責められないでしょ?」

 彼女はしばらく間を置き、考えこんだ。

「彼女に認めさせられたことはないけど、確かに本当よ」

 この情報が何のためになるかは分からないが、ケサイに訊けば傷つけてしまうことは間違いないだろう。エコーに礼を言い、立ち去った。

 まだ〈売春宿〉にいたモドロンを目にして、購入していた小さな玩具のことを思い出した。彼らの一体に話しかけ、その玩具が何なのか尋ねた。彼は、それはポータル・キューブであり、手足をふさわしい配置にすれば起動するだろうと答えた。残念ながら、彼はそのふさわしい配置を知らなかった。

 玩具を注意深く調べてみた。面の一つに巨大な目がある、立方体状の機械的な生き物のレプリカだ。玩具には二つの足、二つの腕、二つの折りたたみ翼、そして少なくとも十八個の関節がある。

 信じられないほど複雑な玩具だ。関節は小さな歯車、プーリー、回り継手で構成されていて、いっそう小さなバネが足を支えている。目を前後に動かす小さなスイッチが背中にあり、翼は織物のような金属でできていて、巧妙に折りたたんで胴体とぴったり重ねることができる。不格好な形にもかかわらず、どんなでこぼこな表面にも立たせることができる。

 私は玩具を見つめながら、子供の頃のことを何か、何でも思い出そうとした。何も浮かばないが、奇妙な感覚に襲われた。私はこの玩具を、小さな子供の目で眺めてみた。

 そして玩具を拾い上げ、腕を動かしてちゃんばらの効果音を真似た。時計仕掛けの関節が、カチカチびゅーんと音を立てる。数瞬のうちに、小さなキューブは私が送りこんだ想像上の敵をすべて打ち倒し、元の位置に戻った。

 私はその腕を振り、歓声を上げた。想像上の大勢の生き物が、次元界じゅうからキューブの勝利を祝う。その目に小さなオイルの涙があふれるのが見えた気さえした……彼はヒーローだ。偉大なキューブは次元界をめぐり、誰もが彼を愛した。私の心の中で、フォール゠フロム゠グレイスとアンナが彼を抱きしめ、キスのシャワーを浴びせた。

 私はため息をついた。気分は一瞬で砕けた。モーテに見られていることに気づいたのだ。私の視線に気づいた彼は、頭を振った。

 私は耳を傾けるかのように頭を傾け、こう言った。

「なんだい、キューブ・ヒーロー? 『モーテは馬鹿な頭蓋骨なの?』おお、その通り、そうだろ、キューブ・ヒーロー?」

 モーテは腹を立てて答えた。

「おい! そいつはそんなこと言ってないだろ!」

「いや、言ったぞ! 今確かに!」

「な—?! 貸してみろ!」

 かつての私だったかもしれない、ぼろを着た子供のペルソナが、即座に不機嫌そうに答えた。

「だめ、これは僕のだ。彼は僕と遊びたいんだ。そうだろ、キューブ・ヒーロー? そう、そうさ!」

 モーテが絞り出す。

「た、だ、少、し、持、っ、て、み、た、い、だ、け、だ」

「でも、君には手がないだろ」

「こ、の、歯、で、持つんだよ」

 モーテをこの玩具に近づけるのは、賢いとは思えない。

「いや、だめだ」

「そいつをかみ砕いてやる」

 私は玩具をしまおうとして、それが遊んでいるあいだにポンと音を立てていたことに気づいた。集中し、それは左膝を曲げた時だと思い出した。膝を曲げ、そして他の手足を動かしてみた。左の翼を開いた時、ひゅーという柔らかい音がした。そしてすぐに、右の翼がブンブンと音を立てる動きを見つけた。右腕を回すと、突然の白い光に目がくらんだ……


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