プレーンスケープ トーメント 非公式小説

アーウィン

前章 | 目次 | 原文 | 次章


 骨董店から出ると、光が落ちかけていた。〈芸術と骨董の美術館ガレリア〉に戻ると、イヴァナ以外は無人だった。私はギャングロイハイドンの像のところまで歩いた。

 店でゴーゴンの軟膏なんこうを見た時から、これが本当に像なのか試すことに決めていた。このソーサラーと話してみたかったことに加えて、正直に言えば、死を欺く自分の能力を過信していたのだ。私は像に軟膏なんこうを塗った。

 ひどい臭いの軟膏なんこうを塗ると、表面が奇妙に輝いた。像が息を吸いこみ、燃え立つ復讐ふくしゅうの狂気が瞳に満ちるのが見えた。

 彼にとっては、周囲の状況が突然変わるはずだ。そのことが彼を思い留まらせることを当てにしていた。しかしながら、それは誤りだった。

 私が何かする前に、ソーサラーの唇から燃え立つ言葉の激流が流れ出た。荒れ狂う熱の波が熱傷のように皮膚に入りこみ、苦悶を感じた。眼球が弾けて失明し、割れた卵のように眼窩から流れ出る……誰かの叫び声が聞こえた。私の叫び声だ……

 自分の叫びの中で最後に聞こえたのは、モーテの声だった……

「斬新な罵倒だな! 〈貴婦人レディ〉の刃の乳首にかけて、いったい—」

 ギャングロイハイドンの凄まじい呪いの犠牲となり、私は死んだ。

 次の朝、宿屋で目覚めた。仲間たちが私の死体を運んでくれたのだ。幸運にも、呪いの効果をすべて受けるほど近くにいたのは、私だけだった。

 宿屋を出て書き物屋区を歩き回り、出会った市民に話しかけ続けた。屋外カフェの人ごみをかき分けていると、以前聞いた人相と一致する女性がいた。背が高いスレンダーな女性が、ときおりワインのカップから顔を上げ、周囲の客や通行人を見渡している。顔立ちは優雅な異国風だ。彼女が見渡すと、その瞳—色は輝く金色だ—が光を受けてきらめく。私は彼女の注意を引いた。彼女は答える前に、しばらく慎重に私を見つめていた。私と目を合わせるのを避けながら、彼女はゆっくりと注意深く喋った。

「私、アーウィンは、あなたに挨拶を返します」

 私は彼女の友人に会ったことがある。

「アーウィンか? 友人のネメレエが捜しているぞ」

 彼女は微笑を浮かべたが、口を手で覆って視線を飲み物に落とした。

「私、アーウィンは、ネメレエのことを聞けて本当に嬉しいです。私、アーウィンは、この場所を彼女に伝えるよう、頼めるでしょうか?」

 私は快く同意した。彼女が私を直接見つめ—飲み物に視線を落とすまで、ほんのわずかな時間だったが—暖かく気持ちのよい感覚、純粋な幸せに包まれた。

「私、アーウィンは、感謝します」

「どういたしまして。だが、彼女について聞いていいか?」

 うなずく彼女に、こう言った。

「彼女の話し方、そして言葉は……どうなっているんだ?」

「私、アーウィンに言えるのは、私たちが別の場所、別の世界から来たということだけです。私たちは、ここの人々とは違います。彼らの言葉、思考—感覚でさえ—は、何にも直接の影響を与えません」

「私、アーウィンは、周囲の人々に影響を与えすぎないように、細心の注意を払っています。ネメレエはここに来たばかりで、そのようにはできません。彼女がここに長く留まることを選ぶなら、学ばなければならないことです」

「だが、なぜだ?」

「理由は多くあります。私、アーウィンは、自らの現実を私、アーウィンに押しつける能力を持たない人々に、現実を押しつけることは正しいことではないと感じています」

「喋るだけではできないことは、何かあるのか?」

 彼女が眉をひそめた。奇妙な不快な感覚が、胃の中に生じた。

「お願いします……私、アーウィンは、これ以上は話しません」

「もう一つだけ質問が……」

 私は言いよどんだ。彼女が私を直接見つめ、金色に輝く瞳に私が映る。

「彼は、これ以上アーウィンに話しません。そしてそのため、もう彼が彼女に、そのように話させることはありません」

 質問を声にできないことに気づいた……喋ろうとすると、言葉が喉で引っかかってしまう。

 たった今私が経験した、現実を作り上げる彼女の能力は素晴らしいものだ。私はシギルという現実をわずかに曲げたことはあるが、アーウィンほど直接的ではなかった。〈葬儀場〉を離れてから多くの能力を学び直した私は、やがてこの能力も手に入れることができるのだろうか。

 少し先で、老婆に鋭い灰色の目でじろじろと見つめられた……最初は顔を、そして腕と様々なタトゥーを。

「やあやあ、傷の。このエロブランドと話しに来たんじゃろ? わずか5枚の硬貨で、占ってもらいに来たんじゃろう?」

 未来を読んでもらうために、微笑みながら硬貨を渡した。エロブランドは硬貨をベルトのポーチに入れ、私の両手をつかんだ。そして深々と顔をしかめながら、黙って手のひらを調べた。ずいぶん時間が経ってから、彼女はこう言った。

「運命なき者と呼ばれる、珍しい者たちがおるのじゃよ。好きなことをして生をさまよい、自らの運命を作り出す者たちじゃ。傷の、お前さんには運命がない……まったくないんじゃ。なんにも教えられん……じゃからほら、お前さんの硬貨じゃ」

 彼女は私に5枚の銅貨を返した。

 私が立ち去ろうとすると、彼女が言った。

「ちょっと待て、傷の……」

 エロブランドが手を伸ばし、腕に触れた。

「かつて遠い昔に、母から受け継いだものがある……ろうで封をされた巻物じゃ。フードをかぶった男から渡されて、いつの日にか、お前さんのような男が知らず知らず受け取りに来るとな。これじゃ……受け取っておくれ」

「これは何だ?」

 エロブランドは眉をひそめ、頭を振った。

「わからん。母は読まぬと誓っておった。そしてわしは、封を破るべからずという母の教えに従った。男は手厚い謝礼を払ったんじゃが、もし開いたら恐ろしいことになるとも警告したんじゃよ」

 歩き去りながら巻物を調べた。これが何かは分からないが、悪い予感がした—開いて読めば、何か危険なことが起きるような予感が。しかしながら、私宛てと思われるこのメッセージへの好奇心がまさった。封を破り、読んでみた。

 巻物には数行のよろめく筆跡と、奇妙なルーンが記されていた。

『お前をずとも、歩みをことはだろう』

『俺を追うのをこのそいつは体だ

『さあ……

 ルーンが突然脈動し、巻物全体が溶けはじめ、悪臭を放つ黒い塊になった。その流体が直接両手の肉の中にしみこみ……魔法の血液毒が、瞬く間に私の血を黒胆汁に変えはじめた。私はしばらくのあいだ、自分の体をかき抱き、激しい苦痛にわめき声を上げていた……そしてその後、痛みは鎮まった。エロブランドのところに戻り、どうやって巻物を手に入れたのか問いただした。

「言ったとおりじゃよ、傷の……母から受け継いだんじゃ。50年かそこら昔に、フードの男が母に渡して金を払って、どんな状況でも読むなと命じたんじゃ」

 エロブランドはため息をつき、しばらくよそを向いていた。

「魔法の使い手じゃった、母はな。秘技において強かった。それでもその男には、怯えておった。その男の目が—見えたのは目だけじゃった—狂気をほのめかしておると、そして目の周りは、しわが寄って灰色じゃったと言っておった……お前さんのようにな。それ以外は、なんにも知らん」

 私はいくつかの約束を果たすことにした。区画を横切って戻り、ネメレエに友人のアーウィンの居場所を教えた。そして再び下層区を訪れ、活版職人のペンから手紙を手に入れた。

 その後、書き物屋区に戻った。今度は感覚者かんかくしゃが使っている〈催事場〉を見つけるためだ。アーウィンに出会った場所を通る必要があったため、立ち寄ってみた。彼女はまだそこにいて、友人のネメレエが合流していた。

 私を目にしたアーウィンは、手を組み頭を下げて感謝を示した。金色の目から、喜びの涙が落ちる。私の目にも涙が浮かび、彼女は涙をぬぐって微笑んだ—体全体に、激しい喜びの波が打ち寄せた。

「アーウィンは見知らぬ人に感謝します! 彼女は親友のネメレエと再開したのです!」

「それはよかった」

 彼女はうなずき、再び視線を落とした。彼女の笑みが呼び起こした感覚が、心地よい記憶に変わっていく。

「私、アーウィンは、あなたに伝えることがあります、見知らぬ人よ」

「私、アーウィンが選んだ名前—『見知らぬ人』—は、適切ではありません。あなたと私、アーウィンは、かつて出会っているのです……〈催事場〉で。あなたが感覚者かんかくしゃでなければ、立ち入ることができない場所で。覚えていてもいなくても、どこかで全感覚協会を裏切っていなければ、あなたは感覚者かんかくしゃなのです」

「なるほど……もっと教えてくれ」

 彼女はうなずいた。

「あなたと私、アーウィンは、二度の異なる機会に出会いました。最初は二世紀以上前、最後はもっと最近のことです。おそらく、50年ほど前でしょう」

 思いがけない情報源から、自分の過去を見つけることができた。

「それは、かなり昔のことだな……」

 彼女は再びうなずいた。

「私、アーウィンの種族は、極めて長命の、〈忘れやすき者〉なのです」

 彼女が悲しそうにため息をつき、私は寒気に襲われた。

「かつてのあなたは、別の男のように見えました……いかめしくなく、傷も少なく。多元宇宙が示すすべてを見たがっていました。あなたは、私、アーウィンに言い寄り、ほとんど恋人のように受け止められていました—しかしその後、あなたは消えたのです」

「どこに行ったんだ?」

「私、アーウィンは、あなたが殺されたと……殺害されたと言われました」

 彼女はしばらく視線を上げ、不思議そうに私の目を覗きこんでいた。

「その後に、私はもう一度だけ、あなたに会いました」

「その時の私は、お前を覚えていたか?」

「いいえ」

 彼女は悲しそうに頭を振り、自分の喉に触れた。

「あなたは覚えていませんでした。あなたは、私、アーウィンを、殺すために襲いかかったのです。私、アーウィンはあなたを騙すことなどできず、あなたを誘惑することも殺害することもない、と叫びながら……」

「私たちは〈催事場〉の北の塔の一つ、その7階で出会いました。あなたが私から命を搾り取る前に、私、アーウィンは力を使い、窓から飛んで死ぬよう命じました。私、アーウィンが、ようやくあなたの砕けた死体を探しに向かった時、あなたはすでに消えていました……」

「そうか……」

 過去の私が数多くの道を旅したことは知っていたが、その分岐の一つが精神異常者であることは考えていなかった。

「あなたのための、私、アーウィンの物語は、これですべてです。私たちは、かつては見知らぬ人ではありませんでしたが、今はそうなりました。さようなら、見知らぬ人よ。旅先で幸運があなたと共に歩むことを願っています」

「ありがとう、アーウィン。さようなら」


前章 | 目次 | 原文 | 次章