プレーンスケープ トーメント 非公式小説

骨の大家

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 前方には、シギルの新たなエリアが広がっていた。〈蟲蔵むしぐら〉ほど荒廃してはいないが、鼻をつく独特な臭いがする。私は露店に気を取られ、さまよい離れていくモーテに気づかなかった。彼の叫び声が聞こえるまで。二体のワーラットが頭蓋骨をつかみ、走り去っていく。

 追いかけたが、この地区を知る彼らには追いつけなかった。私たちは元の場所に戻った。

 鎧を着た男に歩み寄った。明らかに、エッブ・クリークニーズが言っていた、ハーモニウムの衛兵だ。彼は序列三位のヴォルテンと名乗ったが、勤務中であり、助けは得られなかった。誘拐は彼の職務ではなかっただろうか?

 周囲を見回すと、汚い服を着た中年のなぐがいた。彼のほうが役に立った。頭蓋骨をなくしたなら、〈骨の大家〉ロタールを探すべきだと教えてくれたのだ。彼はロタールの居場所は知らなかったが、この区画で荒廃した建物を探せばいいらしい。

 荒れ果てた建物に出くわすまで、しばらく歩き回った。この区画には、修理が行き届いていない建物はここしかなかった。中に入ると、床に井戸のような穴が開いていて、骨のはしごが下に続いている。この場所に違いない。

 下には半ダースの頭蓋骨の棚があった。〈葬儀場〉で目覚める前の、夢のような記憶で見たものだ。その棚の一つから、おなじみの声が聞こえてきた。頭蓋骨の一つがモーテだった。

神威かむいたちに感謝だ、大将。ここから出してくれ」

「そこで何をしてるんだ?」私はそう尋ねた。

「あのワーラットの害獣どもにさらわれて、ここに連れてこられたんだ! さあ、総大将……ここから抜けだそう! この場所は厄介だ!」

「なぜ浮遊して降りてこないんだ?」

「やろうとしたさ! できないんだ! さあアイツが来る前に、オレを……」

 閃光せんこうと煙に一瞬視界を奪われ、気がつくと目の前にやせた老人が立っていた。

「頭蓋骨よ、客人か?」ロタールと思われる男が尋ねた。

「あ~……いや」

 モーテが私に遮二無二ささやいた。

「このブラッドを怒らせるな、総大将……つばを吐く間もなく死者帳ししゃちょうされちまうぞ」

 老人はモーテを無視した。

「こんにちは、旅人よ。ロタールの慎ましやかな画廊に許可なく入るとは、何者かね?」

 礼儀正しく対応して、悪いことはないだろう。

「申し訳ない。しかしお前は、私のものを持っているようなんだ」

「おお、そうか? それは何であろうな?」

「お前の棚に収まっている、友人のモーテだ」

「並の生き物の半分ほども優雅さと作法に欠けた、喋る頭蓋骨が欲しいのか? 返して欲しくば、より素晴らしい頭蓋骨を持ってくることだ」ロタールはそう答えた。

「私のもののために、取引をする必要などない。そもそも彼はお前のものでも……誰のものでも……ないだろう」

「驚くべき無知だ。お主は極めてわずかしか物を知らぬようだ。さあ、別の頭蓋骨を持ってくるか、さもなければ友人に別れを告げることだ」

 別の頭蓋骨はどこで見つかるのか訊くと、彼はこの地区の下の地下墓地カタコンベを探すように言った。そして特に、〈溺れた国〉の先の地下室に埋められているものについて話した。私はこの死霊術師が、彼が思うほど全知全能ではないことに気づいた。彼は、過去の私が“敵”のために残した、罠の墓のことを言っているのだ。私は彼に、その墓は空だったと伝えた。

「それはどういう意味かね?」

 彼は怒りに声を荒げた。

「あの墓は幾重にも罠が仕掛けられ、念視の魔法からも守られ、わしにとってさえ難しいのだぞ! 何か訳があるはずだ。それは、」彼は腹立たしげに言葉を引き延ばした。「お、ぬ、し、が、解明しろ。下の部屋のポータルを通り、答えを見つけ出すのだ」

 私もまた、憤りを感じた。彼が対応しているのは並の人物ではないと知るべき時だ。私はその墓が私自身のものだから、答えを知っているのだと言った。

「お主の墓? お主の墓だと?」

 彼は慎重に私を見定めた。

「この件は、もっと慎重に調査すべきだな。お主の頭蓋骨に未練があるなら、別の頭蓋骨を持ってこい。その後、どのような答えが導き出せるか、確かめるとしよう。わしらの合意は変わらぬ。どこぞの骨で欺こうなどとは思うな—わしはそれなりの鑑定家なのだ。わしにとって価値あるものを手に入れたら、戻ってこい」

 私は持ち歩いているもののことを思い出した。この数日で私が経験したことを知らなければ、忘れていたなどとは信じられないようなものだ。荷物の中から、ミイラ化した頭部を取り出した。

「ワーラットの塵人ちりびとの宣教師、ソエゴの頭蓋骨を持っている」

 ロタールはソエゴの頭を受け取り、注意深く調べ、その歯を確認した。

塵人ちりびとの宣教師かつスパイとな? これは申し分ない」

 彼の指が秘術的な形にゆがんだ。

「友人は地上で待っておるぞ。それがわしの答えだ」

 ロタールは少しだけ打ち解け、いくつか質問に答えることに同意した。私はまず、なぜ自分が不死なのかを訊いた。

「お主の定命性が—言うなれば、お主が生き、そして死ぬことを可能とする魂が—失われておるのだ。魔術的手段によって、取り除かれておる。夜の妖婆ナイト・ハグのラヴェル・パズルウェルによってな。お主の定命性は、お主の存在の鍵だ—それを見つけたとき、お主は答えを見つけるだろう」

 彼は明らかに、私について今もらした以上のことを知っている。私は彼に、そのラヴェルについて話すよう求めた。

「ラヴェル・パズルウェルは夜の妖婆ナイト・ハグの中でも謎の人物だ。彼女のことを泡々あわあわだと言う者も、誰にも見通せぬ深遠なる遊戯を遊んでおるのだと言う者もおる。徹頭徹尾の悪である彼女と比べれば、この地域のフィーンドでさえ神聖に思えるだろう。今は人の手の届かぬところにおる。神威かむいに感謝すべきことに、彼女は〈苦痛の貴婦人レディ・オヴ・ペイン〉によって〈迷路〉に囚われておるのだ」

 〈迷路〉! 〈貴婦人レディ〉の機嫌を損ねた者が閉じこめられる、切り離された現実についての説明を思い出した。常に出口はあると噂されているが、見つけるのはほぼ不可能だと。私は彼に、どうすれば彼女のところにたどり着けるのか尋ねた。

「〈迷路〉とは、ポケット次元界のようなものだ……空間のあいだの、小さな空間。たどり着くには、ポータルと鍵を見つける必要がある。その扉と鍵がどこにあるのかは知らん。古い知己を捜すべきだろうな—お主は間違いなく、痕跡を残しておろう。間違いなく、彼らのほうがお主を見つける—味方であることを願っておれ。おそらく、〈市民催事場〉に行くべきだ。そこに多くの答えがある」

 ラヴェルは何をしたのか尋ねた。

「彼女は玩具とパズルの職人であり、解く必要のない問題を解く者であった。よりにもよってシギルを、この鳥籠とりかごを、巨大なパズルボックスと見なし、解きほぐそうとしよった—意のままのフィーンドの軍勢を招き入れ、おそらく都市のバランスを覆し、このさと全体を納骨堂に変えようとな。お主が大切にする神威かむいに、それが成功しなかったことを感謝すべきだろう」

 ロタールは新たな所有物を持って、私たちを残して部屋を出て行った。彼がいないあいだに何かをすべきではないとは知りつつも、棚を調べてみることにした。髑髏を確認しながら歩いていると、その一つが話しかけてきた。その頭蓋骨の声は、火打石と打ち金が出すような、低いきしり音だった。

「お前……お前のことは、前に見た気がするぞ」

「どこでだ?」

「カースト。カルケリへの門扉街もんぴがいだ」

 当惑する私に、頭蓋骨は続けた。

「なんだお前、脳無のうなしか? アウトランズのへりにある門扉街もんぴがいだろ。カルケリの牢獄次元界への出入り口だ。裏切り者と反逆者の町で、バーテズゥの下着みたいに陰謀が渦巻いてる。カルケリへの扉の近くだから、さとの性質も変わってんだ。街が今すぐ滑り出たとしても、驚きはないだろうな」

 門扉街もんぴがいが、隣接する場所へ—この場合はカルケリに—滑り出る危険があることは、〈くすぶる死体亭〉でカンビオンに教えられて知っていた。この頭蓋骨に、私がそこで何をしていたのか尋ねた。

「そこで何をしてたかって? お前を殺そうとして見当違いのとこに迷いこんだ与太者よたもんについて、何かわめいてたな。まあ、明らかに泡々あわあわだったから、ダチと一緒に転がしたんだ。ワッパを突き刺して、お前のものを山分けにした。俺が裏切られたのはその直後だったけど、分け前を隠した後だったぜ」

 私がその『分け前』の場所を尋ねると、頭蓋骨は素早く侮蔑を返した。

「言うわけないだろ。俺はいつか体を取り戻して、そいつを手に入れるんだ。まあ、それが叶わないとしても、右往左往するお前を見るのは最高だ。せいぜい頑張れよ」

 頭蓋骨は沈黙した。どれほど甘言を弄しても、再び喋らせることはできなかった。

 別の頭蓋骨は—かつては〈嵐前の海〉として知られていたらしい感覚者かんかくしゃだった。〈市民催事場〉に本部を設ける、全感覚協会のメンバーだ。彼はラヴェル・パズルウェルのせいでここに行き着くことになったと話した。私は詳しい説明を求めた。

「いいだろう。私は〈市民催事場〉の感覚者かんかくしゃの本部の感覚器館かんかくきかんで働いていた。ラヴェル・パズルウェルが、あの黒き魂を神威かむいたちが呪わんことを、彼女が見つけた謎解きの答えを求めてやって来た。彼女はパズルの横柄な解明者なのだ—我々の精神を挫くようなものでさえ、彼女の思考力にとっては薄織に過ぎない—それでも彼女は、外に答えを求める必要があるほどの難しさを見出したのだ。彼女は、シギル自体の秘密を解き明かしに来たのだと言った」

「恐ろしく醜悪なことに、彼女は魔法を使うことで、自らの姿を苦もなく偽装することができた—彼女はたびたびそうすると、あるいはそうと、聞いたことがある—そしてあのフィーンドのような外見は、多くの党員候補を怖がらせ、追い払った。それでも私は、彼女が何をしようとしているのか、そして知っていることを私に教えてくれるのか、尋ねなければならなかった」

 私は口をはさんだ。「それは間違いだったようだ」

「そうだ。私は取引を持ちかけられた。彼女は謎解きを考え、扱う者だからだ。彼女が私の質問に答えるなら、私は彼女の質問に答えなければならない。答えを間違えれば、私の命は彼女のものになる。私は同意した。彼女は鳥籠とりかごのパズルを解くつもりだと話した。入りたい者たちすべて神威かむい、フィーンド、セレスチャル、モドロン、スラード、やって来くることを選んだ内方次元界の存在は言うに及ばず—に、開放するつもりだと。彼女にとって一番重要なことは、すべての者たちを永らく悩ませていた謎を、ラヴェルが解き明かしたと皆が知ることだと」

「彼女は私に質問した。その答えは彼女の顔の鼻ほども明白だと彼女は保証したが、私は答えられなかった。次の朝に感覚器館かんかくきかんに来た同胞の感覚者かんかくしゃたちが、私が叫んでいるのを見つけた。私は殺してくれと懇願し、彼らは応じた。新しい経験を味わうことができると提案する者さえいなかった。それほど恐ろしい経験だったのだ。そして……私はここにいる。もう休まなければ」

 まだ話を終えるわけにはいかない。

「その質問は何だ?」

「こうだ。どうすれば人の本質を変えられるのか? 私はその答えを一生懸命考え、そして言った。『愛によってだ』と。彼女はこう言った。すべての人は自らを愛しすぎ、愛のような単純なものでは変わらないと。そして彼女は……彼女は……私はもう、休まなければならない」

 かぎ鼻の非常に暗い皮膚の人物が、似た質問を私に対してする様子が、心の後ろに見えた気がした……しかし、私が何と答えたのかは思い出せなかった。

 ほとんどの頭蓋骨は古すぎて、私の能力に答えることができなかった。とにかく、モーテと再開する時だ。ロタールの隠れ家を抜けて再び下層区に入ると、モーテがじれったそうに待っていた。

 再び全員がそろったので、ラヴェル・パズルウェルについて何か知っていないか訊いてみた。私がその名前を口にすると、アンナは三回つばを吐き、心臓の前で半円を描いた。

「シーッ!  あんたバカなの?! 命が惜しいなら、その名前を口にしないで! 〈灰色の貴婦人〉の中でも一番邪悪なやつなのよ、ほんと」

 彼女は誰かの耳に入るのを恐れるかのように、声を落としてささやいた。

「下劣で卑劣で、そこらの神威かむいよりも力があるとか。完全にだと言われてるわ—心臓さえね。体が木みたいだから、誰も殺せないって—腕を切り落としても、次元界のどこか別の場所ですでに生えてるの」

「まだ生きているような口ぶりだな」

「もちろん、生きてるに決まってるわ」

 アンナは再び声を落とした。

「彼女みたいな存在を、どうやって殺すの? 〈貴婦人レディ〉でさえ、〈迷路〉に入れるしかなかったらしいわ」

 ラヴェルについて付け加えることはないか、モーテに尋ねた。

「ええと、彼女は夜の妖婆ナイト・ハグ—そして、よりにもよってあんたを不死にするような、かんっぜんな泡々あわあわだね。まあつまり、オレを選べばよかったのにな」

 モーテは目を回した。

「やっぱり〈苦痛の貴婦人レディ・オヴ・ペイン〉に刃を向けるほどのくさあなは、絶対に会いたくない人物だよ」


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