プレーンスケープ トーメント 非公式小説

アンナ、PART 1

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 〈埋ずもれた村〉に戻った。私に関する何かをファロドに思い出させることができるか、確認したかったのだ。私たちは村で夜を過ごした。

 再びファロドの館に入った私たちは、部屋の反対側に横たわる彼を見つけた。もはや塵人ちりびとにとって銅貨数枚の価値しかない状態で。

「パパ! なにが起きたの? 誰がこんなことを?!」

 死体を目にしたアンナが叫んだ。

 私は彼女を部屋の隅に呼び、尋ねた。

「アンナ、ファロドがなぜ死んだか分かるか?」

「私……」

 彼女は頭を振る。

「分からない。そんなこと考えるやつなんていない—ファロドの影響力は大きかったわ。彼を邪魔したあんたは、しっぺ返しを受けることになるでしょうね、ほんと」

「アンナ、もう私に同行する必要はない。〈埋ずもれた村〉に留まる必要があるなら、私は—」

「いえ……」

 アンナが私の言葉をさえぎった。

「この村にいる必要なんてないわ—それに私は、ファロドが死者帳ししゃちょうに書かれたらなにをしようって考えてたのよ、ほんと」

 彼女は鼻を鳴らした。

「しかたないわ。きっと地獄で誰かの壁に飾られてるでしょ、ほんと」

「しかし……父親だろう。そんな—」

「本当のパパじゃないわ」

 彼女の視線が厳しさを帯びた。

「貪欲で、愚かで、利己的で、弱かった」

 彼女は顔をしかめた。

「そして今は死んでる。それだけよ」

 私は気になっていたことを尋ねた。

「アンナ、ファロドが私の死体から奪った貢ぎ物を返した時、彼はしばらくいなくなって、そして戻ってきた—しかし悪風の宮廷を離れたわけではない。どこに行っていたのか、知らないか?」

「あら、ええ—うわさだと、あの松葉杖オヤジには近くのどこかに隠れ家があったみたい。こんな汚いすきま風だらけの家をドヤにした理由は、それしかないでしょ、ほんと。ここには悪臭と影しかないわ」

「本当か? 彼は貢ぎ物をそこに置いていたのか? しかし、その全部を? ずっとこの村にいたなら、膨大なコレクションがあるはずだ」

「まあ……」

 アンナはしばらく黙った。

「私が知ってるのは、貢ぎ物を取り出す必要があるときに、彼は館を離れなかったってことだけね」

「彼はあの不自由な足で、遠くまで歩きたくはなかっただろう」

「ええ、その通り—彼を注意深く観察してなかったらね。足が不自由なわけじゃなかったわ。上手くそう見せかけてただけよ」

「なら、なぜ彼は松葉杖を?」

「知らないわ」

 彼女は私をあごで示した。

「あんたはきっと、自分が腰に骨を巻いてる理由も不思議に思うでしょうね、ほんと」

「彼の松葉杖が……ポータルの鍵という可能性は?」

 アンナはしばらく眉をひそめて考え、そしてゆっくりとうなずいた。

「ええ……ありえるわ」

 彼女は肩をすくめた。

「でも、どうやって使うかは分からないわね。持ってるだけでいいかもしれないけど」

 ファロドは死んだが、彼の蓄えには私に関する情報があるかもしれない。死体に近づいた。彼はまだ青銅球を持っていた。私は球と松葉杖をつかみ、館を歩き回りはじめた。

 部屋の隅で、松葉杖がポータルを起動した。私たちはポータルを通り、ファロドの金庫に入った。

 目の前の光景に愕然がくぜんとした。金庫は巨大だった。多少の本があるどころではない。本棚の上に本棚が、ファロドが墓に持っていった順番に並んでいる。がらくたの山、仕分けられたジャンク。この収納場所を造るためには、人手が必要だったはずだ。仕事を終えた後の彼らの運命は、推して知るべしだ。

 夜遅くまで調べたが、ほんの一部しか確認できなかった。普通の財宝は見つかったが、私の過去に光を照らすようなものはなかった。

 モーテとダッコンが別の場所を探しているあいだに、少しアンナと話す機会を得た。話をしたいと伝えると、彼女は怪訝けげんそうに私を見た。

「へえ? なにが知りたいわけ?」

 私は彼女自身のことを話すよう求めた。

「あら、なんのために私のことを知りたいわけ? ヒマなの? 大した話じゃないわよ、ほんと、叙事詩でも期待してるなら、他の人と骨箱ほねばこ鳴らしに行くべきよ」

 生い立ちについて話すよう促すと、彼女は尻尾のことだと受け取ったようだ。

「そんなふうに尻尾を見るんじゃないわよ—目を離せないなら、由来を教えてあげるわ。おじいちゃんの……それかおばあちゃんの、祝福なのよ。どっちかがフィーンドだったの。私はティーフリングなのよ、ほんと、背中から尻尾が生えるくらいデーモンの血が流れてるの。おばあちゃんとおじいちゃんから滴ってきた血が……ママとパパを通り越してね」

 ファロドについてもっと話すよう求めた。

「あの松葉杖オヤジのこと? パパよ……まあ、本当のパパじゃないけど。小さいころに、私を見つけてくれた……」

 アンナは肩をすくめた。

「太ったカモどもが潜りこめない場所に入れる収集家が必要で、それで私を連れてきたの」

「彼のことを、性根が優しいなんて誤解しないでよ……孤児の私に涙を流したりなんてしなかったわ—ただ〈蟲蔵むしぐら〉の路地から死屍しにかばねを掘り出す人手が必要だっただけ。私は小さくて、男どもが入れない場所に入れた。それに男どもは臆病者ばっかりで、あいつらが怖がるような場所からは、私が大半の死屍しにかばねを見つけるようになったわ。ちりどもは持ちこむ死屍しにかばねにそれなりの銅貨を払ってくれるし、ファロドが上前をはねすぎることもなかったから、乞食をする必要はなかった。まあ、根っからの悪人ってわけじゃなかったかも」

「私よりずっと前から村にいたわ。石の時代より前にやって来て、村を発見したのも彼だ、なんて言う村人もいたわ」

 アンナは顔をしかめた。

「抜け目ないやつだったわ、ええ。銅貨を搾り取る方法を誰より知ってて、ジャラ不足なことはなかったわね」

「ずっと青銅球を探していたのか?」

「きっとね」

 アンナは再び肩をすくめた。

「なんであんなに必死に手に入れようとしてたのかしら。あんたが持ってきた時、すぐに臭いで分かったわよ、ほんと」

 彼女は鼻にしわを寄せた。

「ひどいカスタードの臭い。でも……彼があれだけやるほどの価値があるはずだわ—青銅球を手に入れようとして、収集家のほとんど半分が死者帳ししゃちょうに刻まれたのよ」

 私はその理由を知っている。

「彼が青銅球を探していたのは、それが彼の人生を救うと考えていたからだと思う」

 彼女は目をぱちくりさせ、どういう意味か尋ねた。

「彼は善行を重ねてはいなかったらしい—かつては上層区の〈ガヴァナー〉だった。そして明らかにその地位を、他人に嘘をつき、裏切り、傷つけるために使っていた—それで死後は地獄に行く運命だった。青銅球がどうにか救ってくれると思っていたらしい—それで、称号も富も地位も投げ捨てたんだ」

「ほんと?」

 彼女はしばらく沈黙し、頭を振った。

「それでもファロドの愚かさは説明できないわ、ほんと。ただの置物が、運命から救ってくれるわけないじゃない。魂が黒く汚れてるなら、たくさん洗うだけよ」

 彼女は少し間を置いた。

「でも、それが彼を救うと思ってたなら、重要なものかもしれないわね……まあ、少なくとも少しのジャラにはなるわ」

 私は彼女を観察し、独り言をつぶやいた。

「こんなに彼と似てるとは思わなかったな」

 アンナは目を細め、尻尾を激しく動かしはじめた。

「いったいどういう意味かしら?」

 私は返事を言いよどんだ。

「彼はティーフリングのようには見えないという意味だ」

「まあ、そうね……もしあんたがティーフリングについて、半笑いの蟲人むしびとから聞いた以外のことを少しでも知ってたら、私たちの誰もティーフリングっぽく見えないって分かるんじゃないかしら?」

 彼女は頭を振った。

「あり得ないわ、まったく少しも」

「侮辱するつもりはなかったんだ。お前たちはとても違って見える。つまりファロドの……その……ファロドとお前は違う」

「あら、どこに手がかりがあったのかしら? 私の髪? 肌? 他には思いつかないわねえ……」

 彼女は額を軽く叩き、皮肉っぽくニヤリと笑う。

「もしかしたら、“尻尾”かしら? ああ、そうね、それだわ! 私よりずっと鋭いのね。逸材だわ」

「つまり、あの醜くて猫背で強欲で臭いトロルとお前のあいだに、どんな類似点も見られないということだ」

 アンナの顔が真っ赤に上気した。

「あら、そう? どう見えるわけ?」

 彼女に嘘はつけない。私は真実を伝えた。少なくとも、私にとっての真実を。

「つまり、お前は自分を見たことがあるか? 振る舞いは別にして、お前は大胆で、賢明で、優美だ。そしてそれも、お前の明らかな美貌とは比べものにならない。豊かな炎のような赤髪、鋭い緑色の瞳、印象的な横顔」

 アンナはただ私を凝視していた。私はその反応の意味をいぶかしんだ。

「それで、お前とファロドが似ていないというのは、そういうことだ」

 彼女はまだ私を見つめたまま、うなずいた。まばたきさえしない。

「聞いているか?」

 彼女は突然身を乗り出し、柔らかくしゅうしゅうと音を立てながら、私の首を鋭く噛んだ。彼女はさらに体を寄せ、私の耳にささやいた。

「望みがあるとでも思ってるの?」

 尻尾がゆっくりと揺れはじめる。怒りではなく、眠りを誘うかのように。アンナの胸の中で早まる鼓動と、頬を染める色が感じられた。不意に、アンナの肌がなめらかで柔らかいことを意識した。

「あんたに言いたいことがあるの。茶化さないでよね」

「分かった……」私はそう答えた。

「私があんたの匂いを好きだって、知ってた? そうよ乱人みだれびとよりも泡々あわあわになっちゃうわ、ほんと」

 そして私の頬の横で匂いを嗅ぎ、熱心に低くしゅうしゅうと音を立てる。

「あんたの視線は分かってたわ。私は好きよ。その飢えた瞳。炎になっちゃうわ」

「噛みつきたいの、甘く、この首を……」

 彼女の歯が私の首をねだり、しかし皮膚は破らない。彼女がささやくごとに、耳に吐息がかかる。彼女の手が首の後ろに回り、締めつけ、爪が食いこむ。

「この爪を引きずって、無理矢理あんたにキスさせたいわ」

「あんたの匂いは五十歩先からも分かるって知ってる? あのちりどもみたいな、ホルムアルダイトの香り。きっと身ぎれいにしたって変わらないわ」

 彼女の目が光る。

「巨塔に押しつぶされるほど、あんたと愛し合いたいの」

 彼女は後ずさり、尻尾で私の脚を軽く叩き、そして鋭い視線を向けた。

「ねえ……私のこと、好き?」

 私は答えずにアンナをつかみ、彼女が逃れる前に首を甘噛みした。私の歯が肌に触れると、アンナは激しくしゅうしゅうと息を吐き、猫のように爪を立て、私を引き離した。

「ただだけよ、こ、この傷だらけの吸血鬼! は、はは離れて!」

 その主張に反して、彼女の顔は紅潮し、息は荒い。

「次は気をつけることね!」

 彼女は腕を組んだ。

「真っ赤になっちゃうわ、ほんと!」

 私も少しだけ後ずさった。冷静に考え、自分が彼女を利用しているのではないかと恐れた。彼女の反応のどれだけが、ファロドの死による影響だろうか。言葉とは裏腹に、彼女が彼をとても気にかけていたことは分かる。

 いつの間にかモーテが戻ってきていたが、今回ばかりは彼のトゲのあるウィットに感謝した。不意の気まずさから救い出してくれたのだから。彼はいつもの皮肉な意見を披露した。

「ちょっとだけお邪魔して、一つだけ指摘させてもらえるかな。オレは雰囲気を台無しにするようなことを言うつもりはないよ、大将。ただここに浮かんで、見てるだけだ。気にするな—ただここに腰を据えて、浮かんで、見てる。それがオレだ」

 アンナが言った。「私を見るのをやめなさい、このぶっし髑髏」

 私はただ、もう遅いから休む必要があるとだけ言った。このファロドの倉庫に何か本当に価値あるものがあるのか確認するには、ひと月はかかるだろう。時間を無駄にしたくはない。私たちは、先に進まなければ。


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