プレーンスケープ トーメント 非公式小説

ザカリア、PART 2

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 霊廟を離れて再び〈葬儀場〉に入り、盲目のゾンビを捜した。そして彼に〈骨の言伝ストーリーズ・ボーンズ・テル〉の能力を使い、ザカリアなのか尋ねた。

「な……お前!」

 ゾンビはショックを受けたようだが、嬉しそうだ。

「〈貴婦人レディ〉の視線にかけて……」彼の口調が驚きを帯びた。「死んだんじゃなかったのか、切者せっしゃ?」

 彼の正体を尋ねた。

「まあ、この汚い白布をはいで、愚かなるザカリアを見出すのは難しいよな? それが俺だ、切者せっしゃ神威かむいに祝福あれ。またお前に会えるとは思わなかった……でも耳で分かる以上に、変わったみたいだな……また馬鹿な選択をしたのか?」

 ザカリアは喉の穴からゼーゼーと音を立てた。

「お前も死んだのか?」

「いや、長い話だが……私は死んでいない」

「おいおい、切者せっしゃ、死んでるのは疑いようがないだろ。でも、どうやって話してるんだ? ナイフみたいに鮮明な声だ……」

「ここで何をしている?」

「こんな命がない場所で、馬子をやってるんだ。永遠の境界を越えられれば、そして故郷と呼べる次元界があればよかったんだが、俺の魂は浪費されるばかりだ。それで今、ここにいる」

「ゾンビになるのはどんな感じだ?」

「堅気な仕事だよ……」

 ザカリアの口から糸がほどけ、唇が笑顔と思われる形にめくれ上がった。

「……どうでもいいけどな」

「なぜそんな状況に?」

 彼は恥じ入るかのように声を落とした。

「お前に付いていくのは大変だったんだ、切者せっしゃ。恐ろしいことがいっぱいあった。俺は酒に頼って、ほとんど酒浸りになった。ひどく飲んだときに、死体をちりたちに残す契約をしたんだ。気が滅入れば運命に蹴飛ばされちまう。ほどなくして、俺は死んだ」

「私の以前の人生について、何か話せることは?」

「なんでだ? 忘れたのか?」

「ある意味では……そうだ」

「まあ……変なやつだったな。いつも疑り深くて、何かを探してた……お前みたいなやつには、敵がたくさんいたんだろう。盾突いたやつらが死者帳ししゃちょうの黒い章に刻まれることになるのは、紛れもない事実だった」

「他には? 何か具体的なことは……」

「べらぼうに無慈悲でもあった……俺にあの契約をさせた時とか、泣き叫ぶ子供をアヴェルヌスに捨てた時とかな。バロールみたいな時もあった。お前のもとから逃げ出そうなんて、妄想するやつさえいなかったよ」

「根本的に、お前は自分に起きたことを、戦争の侵略みたいに見てた。お前にとってはすべてが戦いで、俺が出会った中では一番冷酷なクソ野郎だったかもな。目的を達すること以外は、気にも留めてなかった。哀れなダイアナーラが泣きながら訴えても、お前はびくともしない。ギスがお前の戦略を戒めても、この次元界にたどり着いた時に哀れなザカリアが止めようとしてもな。死なないみたいにタフだったけど、俺たちはただのヒューマンだ。みんな死者帳ししゃちょうの中にいるだろうな……まあ、外にいるとも言えるけど」

「お前が俺たちのもとを去った時、残していったものがある……主人のいないダッコンと、友人のいない頭蓋骨だ。俺は? お前は俺の奥深くに何かを突き刺して、そいつは生きてるあいだも出てこなかった。それが俺の血を冷たくして、胸の中に鉛の塊みたいに居座ってるんだ」

 ダイアナーラについて尋ねた。

「あの可愛らしい“兵士志望の女の子”は、バートルにだってお前に付いていくと誓ってた。そして神威かむいにかけて、お前と離れないためにマジでその通りのことをした、くさあななやつだった。俺やギスのことは気にも留めてなかった、少しもな。お前に夢中すぎて手に負えなかったよ、間違いなく泡々あわあわだった。女連中がお前みたいな傷だらけの悪党の中に何を見てたのかは理解できないけど、それが彼女たちの血をたぎらせてたんだ。書き物屋区出身のぼんぼんの役立たずで、お前は彼女の何かを必要としてて、その代償は彼女が付いてくることだけだった」

「私は彼女に何を望んでいたんだ?」

「俺が照らせなかった闇の一つだな、切者せっしゃ。お前のほうが詳しいんじゃないか?」

「ギスについては、何か知っているか?」

 先ほどのダッコンとの議論の後では、ザカリアの言葉が彼をさらに傷つけることはないだろう。

「いかめしいギスだった……愛想がなくて、無口。他のギスと同じようにな。少しも信じてなかったよ、俺は。いいか、切者せっしゃ、ひょろ長いギスたちは、二つのことしか頭にないんだ。奴隷にならないことと、イカ頭のイリシッドを殺すことさ。他のことは優先順位のはるか下で、彼はお前のことしか気にしてなかった」

 彼の考え方に興味をひかれ、私と同じ疑いを持っているか確かめるために、モーテについて質問した。

「あの口汚い頭蓋骨は、いつも殴られたがってたぞ、まったく! 生意気な口をきいて、俺の境遇をからかってくるんだ!」

「お前は……盲目の射手……だったんだろう?」

「そうだ。本当に忘れちまったのか? どんなやつも、その眼以上のもので見てるんだ、切者せっしゃ……それが他人より上手いやつもいる。俺は敵の—お前の敵の—心臓を感じることができた。俺の矢は、いつでも真実を貫いた。ああ、そんな時代もあったな……」

「私の日記がどうなったか知らないか?」

「お前自身の肉体を縫い合わせた、俺の生涯よりもページが多い、あのスクラップブックのことか?! あの恐ろしい本をなくしたなら幸せだぞ! お前はいつもあれに書きこんでて、恐怖の臭いをまき散らしてた。誰かに盗られるのを恐れてるみたいだったな……指の皮膚が裂けるほど書きこんで、ペンを通して脳箱のうばこをぶちまけようとしてるみたいだった。お前が書き上げるのを何日も待つこともあったよ。俺はあの地獄みたいな本が嫌いだったんだ。お前はあれに取り憑かれてるみたいだった。最後に見たときはな、切者せっしゃ、お前の持ち物の中にあったよ。お前が持ってないなら、次元界のどこにあるのか見当もつかない」

 立ち去る前に、ザカリアから頼み事を受けた。彼は恥じ入るかのように声を落とした。

「俺はいくつか間違いを犯した。本当にひどい間違いをな。一番の間違いは、塵人ちりびとと契約したことだ。あんなに酒に溺れてなければ、そんなことはしなかった。後悔してるんだ。それを正して欲しい」

「きっとこの死体は、まだまだ持つ……そしてその毎日が、俺には長すぎる。昔のよしみで……俺を殺してくれないか? この〈葬儀場〉でさらに何年も青ざめたやつらと過ごすのは、ひどく恐ろしいんだ。あるべき死者帳ししゃちょうに戻るのが、正しいことだと思わないか?」

「それがお前の望みなら……」

 私がザカリアを殺し、彼はドサリと床に倒れた。死体からしゅうしゅうと音がして、胸が一度波打つ。そしてかすかに震え、沈黙した。

「安らかに眠れ、ザカリア」


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