プレーンスケープ トーメント 非公式小説

ダッコン、PART 2

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 〈葬儀場〉に戻る途中で、近くの霊廟に入った。ずいぶん長いあいだ、ネズミ以外の来訪者や哀悼者はいないようだ。そこでダッコンのほうを向き、フェルの入れ墨店で始めた議論を再開した。

「フェルが腕のタトゥーを説明した時、お前はそれが、過去に私と旅した四人のことを語っていると言ったな。その四人について、話せることはあるか?」

「女性は若かった。来たることを生まれながらに識っていた彼女は、時を崇拝していた。射手は盲目であり、他の者には見えぬものが見えた。その矢の軌跡は、常に敵の心臓へと続いていた。親しき者と奴隷のことは、わずかにしか識らぬ」

「来たることを? その女性の名は、ダイアナーラではなかったか?」

「彼女が帯びていた名は、ダイアナーラであると識れ」

「射手については何を知っている?」

「彼のことはあまり識らぬ。兵士であったことは識っておる。アルコールが彼の人生を損なったことは識っておる。盲目である彼は、異なる視力を識ることとなった。これを識り、そして彼は強くなった。しかし彼は、自らの強さを識らなかった」

 彼の名前を尋ねた。しかしダッコンが答える前に、私はその射手のことを識った。頭蓋骨の後ろに這い回るような感覚がして、巨大なぬかるみの海から浮かぶように、その名前が浮上するのを感じた。

 私は静かにつぶやいた。

「彼の名は、ザカリア……盲目で、しかし盲目だからこそ、他者には隠されたものを見ることのできる千里眼を手に入れた。彼は射手で、放たれた矢は常に敵の心臓を貫いていた」

 ダッコンが同時に、私の質問に答えた。

「彼が帯びていた名は、ザカリアであると識れ。そして彼の名が、多くの敵の心臓を貫いたことを識れ」

「なぜ私がその四人と旅していたか、知っているか?」

「タトゥーは彼らの道について何も語らず、ただ彼らが縛られたシンボルについて語るのみ。その道を識るのは、お主のみであろうことを識れ」

 まだ語られていない二人、親しき者と奴隷に思考を戻した。親しき者は、モーテに違いない。

「それで、お前はどちらだったんだ、ダッコン? お前は奴隷だったのか?」

 ダッコンはしばらく黙っていた。彼の剣の表面が、騒乱のさなかであるかのように渦巻いた。

「その者は、お主に仕える借りがあると識れ。その借りは、隷属となった」

「どうしてそんなことに?」

「長き物語であると識れ。儂と、かつてお主だった者のあいだの問題だ。聞くのであれば、長き話になるであろうことを識れ」

「うねるリンボの次元界において、儂らの種族はその思考によって、混沌から都市を形作っておる。分かたれた心のための場所など、ないことを識れ」

 ダッコンは背中から剣を抜き、正面に構えた。そして見つめていると、剣は紙切れほどの薄さにまで鋭くなった。

「分かたれた心とは、定まらぬ心だ。分かたれた心は壁を砕き、石をもろくする」

 ダッコンが話すにつれて、刃のふちがわずかに朽ち、金属が曇り、ふちに沿って溶けていく。

「分かたれた心が多ければ、都市は破壊されるだろう」

「長らく儂は、ゼルシモンの言葉を識っていた。儂の言葉を通して、多くの者がゼルシモンの言葉を識ることとなった。ゼルスは、肉体および精神に対するすべての脅威から、共同体を守るのだ。混沌における導き石なのだ。しかるほどに、儂はゼルシモンの言葉を識らずにゼルシモンの言葉を語ることとなった。しかるほどに、もはや自らを識ることができなくなったのだ」

「つまり……ゼルシモンの言葉を疑ったのか?」

「否」

 ダッコンの声は鋭く、彼の刃も呼応して鋭さを増した。

「儂は彼の言葉を識っていた。しかし、他の者たちはゼルシモンの言葉を、ゼルシモンが識るようには識らぬのではないかという考えが、儂の心に浮かんだのだ。心は二つとなり、心は分かたれ、導き石が分かたれた。数多のギスゼライ、何百ものギスゼライが……疑念を抱いた。シュラクトロールが落ちたのは、その日だ」

「ゼルシモンの敵がやって来た。ゼルシモンの言葉に対する、剣に力を与えた儂らの種族に対する、彼らの憎悪を識れ。弱体化した都市を彼らが感知し、戦争をもたらしたことを識れ。多くのギスゼライが、混沌と敵の刃の下に溺れた」

 焼けつくかのように、剣の表面に小さな金属の泡があらわれた。

「それが、はるか昔に起きたことを識れ」

「シュラクトロールの城壁から落ちながら、儂は自らが壊れたことを識った。刃はかすみ、心は分かたれていた。リンボの海を漂い、溺れ死ぬことを願った。何日も切望し、分かたれた心が波にもまれ、ついに死が儂のところにやって来た。それはお主の皮膚をまとい、お主の声を発した」

「私が?」

 どうやってそこに行ったのか、いぶかしみながら尋ねた。

 ダッコンが答えた。

「お主は、声が聞こえるかと問うた」

 ダッコンがその言葉を口にすると、視界が外へとにじみ、頭蓋骨の後ろに這い回るような感覚が広がった……少しのあいだ吐き気を感じ、そして突然、視界が無秩序に不鮮明にゆがみ、私は別の場所にいた。過去のどこかに……私はその記憶に身を任せた。

 周囲のすべてが混乱だった—視界がかすみ、渦巻き、回転する。そのすべてが同時に起きている……霧が、火の玉が、泥の島が、氷に覆われた岩が、次元界を魚のように泳ぎ回り、衝突し、分裂し、吠える風の中で水滴が弧を描き、歯牙のように皮膚を削る—私は吐き気を抑え、気を静めた。ここは〈リンボ〉の次元界だ。すべてが混沌で、安定したものは何もない……前方に横たわる死にかけの男に焦点を合わせた。この場所に来たのは、このためだ。

 この〈ゼルス〉を調べ、まだ生きているか確認した。男はギスゼライであり、周囲を渦巻く土の塊に埋まっている—彼は無意識に墓を形作っているのだ。火や水の欠片が顔をなめるが、反応しない。その手は青白く、石炭のような瞳は焦点が合っていない—やつれた骨格が飢餓を物語っているが、それは彼の傷の中で最も軽いものであると、私は知っていた。彼に致命的な一撃を与えたのは、信仰だったのだ。

 彼が帯びる剣を見た。しなびた左手が金属のねじれた塊となり、その表面が籠手のように手の周りで溶けている。観察していると、それは病気の蛇のように、しゅうしゅうと湯気を出した。ギスゼライは気づいていないようだが……私をここまで連れてきたのは、この武器だった。

「溺れしシュラクトロールの〈ゼルス〉、カラチの刀の最後の担い手、ダッコンよ。私がゼルシモンの言葉を携えて来たことを知れ。混沌ではなく石に、不壊ふえの輪に、意志によって刻まれた言葉を携えて来たことを」

「ゼルシモン」という言葉にダッコンの眼球が回り、私に焦点を合わせようとした。彼は苦労して口を開いたが、乾いた音しか出てこない。私は鞄から石を取り出し、彼に見えるようにかかげた。

「この石に刻まれたゼルシモンの言葉が、真実であると知れ。そしてお前の分かたれた心は、もはや分かたれる必要がないことを知れ。すべきことは、この石を手に取ることだけだ。そうすれば、お前は再び自らを識るだろう」

 しばらくのあいだ、ダッコンの視線がゼルシモンの不壊ふえの輪に揺れていた。死に近すぎて、認識できないのだろうか。右手が痙攣し、ゆっくりと土の牢獄から引き抜かれた。土の塊が流れ出て、リンボの混沌の風の中で水に変わった。溺れる男のように、骸骨のような手が石をつかみ、そして瞳が輝いた。

「お前の命を救ったのは私だと知れ、シュラクトロールの〈ゼルス〉、ダッコンよ」

 ダッコンは視線を石から私へとひるがえし、再び乾いた音を発した。乾きすぎて、言葉をなすのにしばらくかかった。彼はゆっくりとまばたきし、そして話した。それはほとんどささやき声だったが、私が聞きたかった言葉だった。

「儂の……命は、お主のものだ……お主の命が、消えるまで……」

 私は目を閉じ、現在へと戻った。

「輪を、私から受け取ったのか?」

「そうだ。その言葉を識り、儂は自らを識った」

「その私のことを教えてくれ……お前が知る私のことを。彼はどんな人物だったんだ?」

 ダッコンの視線が私を巡り、そして彼は沈黙した。

「ダッコン?」私は彼を促した。

「彼は異なっていたと識れ。その違いは皮膚に、武器の扱いに、体を包む衣装に、あらわれるものではないことを識れ。違いは考え方と、その思考に基づく行動であることを識れ。彼は他者を見ていたが、他者を見てはいなかったことを識れ。彼が識っていたのは、他者が彼にどう仕えるか、だけであった。その心は陰険であり、冷たく、その冷たさが彼を燃やしたことはなかった」

「それがお前に及んだことは? 彼はお前を裏切ったのか?」

 ダッコンの刃がにじみ、つやのない鈍い黒色へと変わった。そしてそのふちから、のこぎりのように角が生えた。表情は硬く、言葉が歯のあいだから漏れ出てくる。

「お主がそれを識ることは、儂の意志ではない」

「話せ、ダッコン。彼がお前を裏切ったことは?」

「儂は自らのを彼に引き渡した。を引き渡した」

「何を言っているんだ?」

「儂の種族は、自らが行動や鎖で他者の奴隷となることを許さぬ。かような鳥籠の中にいると分かった場合、儂らは自由のために行動する。たとえそれが、一時的に別の鳥籠に耐えねばならぬことを意味するとしても。そうすることで、お主は儂を奴隷とした。儂は自らを解放するために行動した。儂は自らの言葉と自分自身を引き渡し、お主の名の下に行動する。お主が死ぬまで」

 恐怖を感じた。

「しかし……私は死ぬことができない」

「それは彼の者には識られていなかった。儂は自らのを彼に引き渡した。を引き渡した。もはや自らの命以外に、引き渡せるものは残っておらぬことを識れ。儂は今、ただ死ぬためだけに、お主に付き従っておると識れ」

 彼が話すのをあれほど躊躇した理由が分かった。私は目の前で苦悩する者に対して同情を感じ、彼の痛みを和らげる方法を模索した。

「ダッコン、そんな必要はない……私がお前を解放できる。もうお前が奴隷であることは望まない—借りは返されたと考えてくれ」

「否……」

 苦痛がダッコンの額にしわを作り、彼の視線が私を見通した。

「重要なのは、お主の言葉ではない。お主の言葉では、儂は解放されぬ。儂を鎖につないでおるのは、儂の言葉なのだ。この苦悩は、儂のものだ。儂は心の中で、鎖が残っておることを識っておる。言葉によって解き放たれることはないのだ」

「お前が自由になる方法はあるのか?」

「お主が最後の死を迎えねばならぬ。しかしお主の道は、死の道にあらず。この問題に、解決策はない」

 それは受け入れられない。

「方法を見つけると誓う。お前を自由にする方法を、私が見つけ出す」

 まるで突然病気になったかのように、ダッコンの声がぼろぼろになった。

「お主は、儂の言葉に、さらなる言葉を加えたと識れ」

 彼は痛ましい表情で、私と目を合わせた。

「今のお主は、儂ら両方を、鎖につないだのだ」

 彼にさらなる苦痛をもたらしてしまったことを、申し訳なく思う。それでも私は、彼を解放する方法を見つけるつもりだ。


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