プレーンスケープ トーメント 非公式小説

ザカリア、PART 1

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 私たちは〈埋ずもれた村〉を離れ、再び〈蟲蔵むしぐら〉を訪れた。歩いていると、アンナがコメントした。

「私はここで育ったの。でもね、楽しい子供時代じゃなかったわ」

 〈葬儀場〉へ向かうことを彼女に告げ、先導させた。私は彼女の尻尾を見ていた。その動きは催眠術のようだ。そして彼女のお尻の揺れに、思考が別の領域へと導かれていく……

 彼女がちらりと振り向き、私に気づいてこう言った。

「私のぶらぶら尻尾が好きなわけ? はたいてあげるわ」

 また馬鹿みたいな気分にされてしまった。私は何も言わず、率先して先を急いだ。

 市場の近くを通った時に、まだ周囲の材木からくぎを探しているアイアン・ナールズに声をかけた。彼女は背筋を伸ばし、腰に手を当てた。

「戻ってきたのかい? 今度は何が必要—」

 彼女は私のそばにいるアンナに気づいた。

「おっと、切者せっしゃ……新しいお友だちかい?」

「アンナだ」

「自分で言えるっての! 私はアンナよ。それがあんたに関係あるわけ?」

 アンナは、ふんっ!と腕を組んだ。ナールズはただ微笑み、優しげな視線を私に向けた。私も微笑み返し、そして立ち去った。

 商人の売り物をざっと眺めてみた。食器売りだ。立ち去ろうとする私を、商人が引き止めようとした。

「ああ、旦那さん、待ってください!」

 彼女は私の前腕に手を置き、羽根のように軽く触れた。

「本当に、必要なものは何もありませんか? ご自分の家か、贈り物にでも……」

 アンナが声を上げた。

「ええ、なにもないわ。こいつのこと、聞いたことないわけ?」

 そして目を回した。

神威かむいにかけて、この鹿馬かまから少し離れなさいよ。まったく恥ずかしいわ、ほんと」

 商人は可愛らしい団子鼻を上に向けた。

「あらまあ! 哀れな商人の売り上げを奪おうとするほど、嫉妬してるのね? ああ、次元障りさん、この旦那さんはお客さまなのよ、所有したり奪い合ったりする肉片じゃないわ」そう言いながら私にうなずいた。

 アンナは愕然がくぜんとし、そして怒り狂った。

「嫉妬ですって?! ふさぎなさい! 言葉に気をつけることね。その舌を骨箱ほねばこから切り取って埋めて、死体はシギルの反対側に埋めてやるわ、ほんと!」

 商人は明らかに怯え、どんどん後ずさっていく。

「それとあんた!」

 彼女は怒りで瞳を輝かせ、嫌悪に唇を歪めながら、私のほうを向いた。

「冗談じゃないわ! このくさあなのたわごとを、少しも真に受けるんじゃないわよ! 後悔することになるわ!」

 アンナが商人への脅しを遂行する理由を見つけてしまう前に、素早く立ち去った。アンナの私に対する影響を考えてばかりで、私の彼女に対する影響のことは、考慮していなかった。

 〈葬儀場〉にたどり着いた私たちは、ダールと話す必要があるという口実で中に入った。本当の望みは、かつて死体に宿っていた霊魂に手を伸ばす新たな能力を使い、私について何か覚えている歩く死体がいないか確かめることだった。死者帳ししゃちょうに記されたかつての仲間に、会うことができるかもしれない。残念ながら、大半の歩く死体は死んでから時間が経ちすぎていて、霊に接触することができなかった。そして〈蟲蔵むしぐら〉で最近死んだ者たちが知っているのは、街路の生者たちと同程度だろう。

 頭蓋骨に「331」の数字が彫りこまれた男性の死体から、興味深いことが分かった。彼の目と唇は縫い合わされていて、喉には大きな穴が開いている。酷い臭いだ。私はこの死体に〈骨の言伝ストーリーズ・ボーンズ・テル〉の能力を使った。

「そ、そ……」

 ゾンビはぎこちなく声を取り戻し、不安そうに騒いだ。

「そこにいるのは誰だ?! 答えろ!」

「私が見えないのか?」そう尋ねた。

「盲目なんだ、死んでからも、生前も……さあ答えろ。お前は誰だ?」

「お前は誰だ?」同じ質問を返した。

「俺は……」

 ゾンビは沈黙した。

「……俺の名前は……消えてしまった。俺は……自分が誰なのか、もう思い出せない」

 苛立たしく背を向けると、驚いたことにダッコンの顔に懸念が浮かんでいた。私がモーテを一瞥いちべつするあいだに、彼は平然とした表情を素早く取り戻していた。頭蓋骨のほうは、何も異常は見出せなかった。しかし疑いがぬぐえない私は、彼らを試す計画を考えた。

 フェルの入れ墨店に戻り、今回は仲間と一緒に入った。フェルを視界に入れると、アンナが体をこわばらせた。

「ここにいたら〈貴婦人レディ〉の目を引いてしまうわ、ほんと」

 何が問題なのか尋ねた。

「バカなの?!」

 アンナが私のほうを向き……私は彼女がことに気づいた。

「こいつと言葉を交わして、豚みたいに〈貴婦人レディ〉の影の中で踊りたいわけ?! 死者帳ししゃちょうに書かれる前に笑いをくれてやりましょうよ!」

 彼女のぬけない自立心に急に穴が開いたことに驚いた私は、もう一度何が問題なのか尋ねた。

よ」

 アンナが怯えた視線をフェルに向けた。

「離れましょう、ね? ここにいても、いいことなんてないわ、ほんと! こいつはダバスじゃないダバスでしょ? 地面を歩いてるわ……」

 そしてほとんどささやき声になり、震えはじめた。

「もう質問なんてないわ、笑いをくれてやりましょう、ね?」

 扉へ動かない私を見て、彼女が続けた。

「フェルは彼女を怒らせたダバスなの。ダバスじゃないダバスって言われてるわ。〈貴婦人レディ〉の視線がこいつに向けられるのも時間の問題よ、ほんと」

「〈苦痛の貴婦人レディ・オヴ・ペイン〉のことを言っているのか?」

 彼女の恐怖の源が分かった。

「ええ……言葉に気をつけなさい!」

 私が〈貴婦人レディ〉の名前を口にした時、アンナは空中に半円を描いた。

「ダバスは〈貴婦人レディ〉のために働いて、彼女がこいつらを守るわ……フェル以外を」

 彼女は震えおののいた。

「離れましょ、ね?」

 フェルと話すことは重要だ。アンナのためだけにやめることはできない。私は彼女に、少しフェルと話す必要があるだけだと伝えた。

 アンナが私の腕をつかんだ。

「お願い、だめ、だめよ! いいことなんてないわ—フェルと話したやつは、〈貴婦人レディ〉の目を引いてしまうの。私は死にたくないわ、死にたくない!」

 驚いたことに、アンナは泣き出しそうだ。

 彼女を抱きしめたくなったが、躊躇した。拒絶されるのが怖かったのだ。代わりに、言葉で慰めることにした。

「アンナ、私がここにいる限り、お前に危害が加わることはない—約束する。ただ少し彼と話したいだけなんだ」

 少しのあいだ、アンナはただ私を見ていた。そして私の瞳の中の何かが彼女を落ち着かせ、彼女は覚悟を決めたようだ。

「分からない、けど……」

 彼女は頭を振った。

「いいわ、彼と話せばいいじゃない! 私には関係ないわ!」

 彼女の声の奥底には、恐怖が流れていた。

 前回はフェルの言葉をほとんど理解できなかったふりをして、ダッコンに翻訳を頼んだ。そして地下墓地カタコンベで見つけた切断された腕に入れ墨をしたのはフェルなのか、彼に訊くように言った。

 フェルは前回と同じように、タトゥーの一つが、私の道が他の四人と分かち合われていた時のことを語っていると話した。ダッコンは翻訳することなく、黙っている。彼を促すと、腕が私のもので、タトゥーはフェルのものだ、とだけ話した。

 他に何か言っていないか詰問した。ダッコンはしばらく黙り……私は突然、直感的に、ダッコンがことを知った。彼はまったく平坦な口調で続けた。

「残りの記号は、儂には識られておらぬ」

 ダッコンに嘘をつかれたことに、心が痛んだ。私は彼のことを、ギスゼライの名誉ある生き方のことを、知りかけていたと思っていた。そしてそれ以上に、彼を信頼していたのだ。これを裏切りと考えた私は、なぜ嘘をつくのか率直に尋ねた。ダッコンは再び沈黙し、私を見ようともしない—彼は、はるか遠くの何かを見つめているかのように見えた。

「この記号を……お主が問うたことに対する答えを識ることに、意味はない」

「ダッコン、真実を知らないことが、本当に誰かの助けになったことがあったか? 無知を助言するような相談役は、自分の立場を裏切っているだろう」

「お主の言葉には、真実がある。その真実は……儂には識られておるはずだ」

 ダッコンはしばらく沈黙し、そして私のほうを向いた。その目は冷淡だ。

「この記号は、かつてお主が共に旅した四人のことを表しておる」

 記号がフェルの周りで渦を巻き、私と旅した四人を表すパターンを形作った。しかしながら、ダッコンはフェルを見ずに続けた。

「タトゥーは四人の心を語っておる。彼女を識り、愛を識らぬ男を愛した女性。常命の眼が見ることのできぬものを見る、盲目の男。親しく、獲得され縛られた、魔道士のペット。そして最後に、奴隷」

「なぜ言いたくなかったんだ?」

「その四人は、儂に識られておるシンボルに、縛られておる」

 フェルの頭上に現れた苦悩のシンボルを、ダッコンが説いた。

「このシンボルは、苦悩だ。お主は常にこれを身につけていたと、彼は言っておる。心が識らずとも、肉体がその苦しみを識っておるがゆえに」

 ダッコンは、四人についてこれ以上話すことを拒んだ。少なくとも、私が仲間として選んだ者以外の前では。

 いくつかタトゥーを購入するために、フェルに助言を求めた。しかしアンナがまだ非常に神経質で、今にも〈貴婦人レディ〉が壁から出てくるのではないかと落ち着きなく周囲を見回していたので、取引は手短に切り上げた。


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