プレーンスケープ トーメント 非公式小説

死者の国

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 再び宿で夜を過ごし、地下墓地カタコンベに戻った。探索していると、ゾンビの戦士とスケルトンの戦士(つまり白骨化した後に戦士となった者)の死体に、出くわすようになった。石の顔が言っていた〈死者の国〉に近づいているのだろう。ファロドが到達したことがないエリアに入り、さらに突き進んだ。

 扉の一つを押し開けた私たちは、驚いて立ち止まった。アンデッドの大群が待ち受けていたのだ。風変わりな杖を持ちローブをまとったスケルトンが、声を出した。

「止まれ! 旅人よ、汝はあまりにも遠くに来た。〈沈黙の王〉の領地、〈死者の国〉を侵害している! 汝は、平和的に服従するか?」

「服従してどうなる?」

「我らの国の門を通りし者たちが囚人となるのは、〈沈黙の王〉の御心である。汝、服従するか?」

 目の前の数に対して、チャンスがあるとは思えない。その上、アンデッドが話し続ける限り、何か役に立つことを学べるかもしれない。私は服従することに同意した。

「ならば来い……汝に礼拝堂を見せよう。館をさまようのは自由だ。だが、地下墓地カタコンベを去ることは能わぬ。汝は死ぬまで囚人である。その後、我らと同じように立ち上がれば、汝は自由となる。〈沈黙の王〉を称えよ。その御心のままに」

 いくつかの通路を通り、古代の礼拝堂まで連れてこられた。その場所から、一つの部屋へと通路が続いている。驚いたことに、部屋には他にも生きている者がいた。私も知るその人物が、声をかけてきた。

「ほう、生者のメンバーが増えたな。こんな遠くに来るまでに、大半がグールに殺された。君は幸運だ」

「〈葬儀場〉のソエゴ。ここで何をしているんだ?」

「君の記憶力もそれなりだな。俺はもう、〈葬儀場〉が持ち場ではない……代わりに、この辺りで宣教師をしている」

「宣教師?」

「そうだ、この辺りにアンデッドがいるという噂を聞いて、この地下墓地カタコンベまで来た。彼らを救済したいと思っている。情熱が、彼らをこの偽りの生に縛りつけている。その情熱を捨て、この偽りの生を置き去りにして、真なる死へと到達することを悟らせることができればいいのだが」

「彼らを死なせたいのか?」

「情熱との縁を切り、この存在の次元を超越させたいのだ。それで彼らを救うことができる」

 休める場所を探そうと背を向けると、彼に呼び止められた。

「一つだけ伝えておこう。この地下墓地カタコンベのアンデッドは攻撃するな。君が平和的である限り、傷つけられることはない。もし敵意を示せば、彼らは身を守るだろう。そして彼らは……数が多い」

 部屋には家具がほとんどない。私が座ることにしたテーブルだけだ。ソエゴはこの上で寝ているに違いない。足をぶら下げたテーブルの側面を見ると、わずかに開いたパネルが見えた。ソエゴが持ち物を入れているのではないかと思った私は、彼が近くにいないときに調べてみることにした。〈葬儀場〉における彼の疑り深さを思い出し、彼が語ったことが真実の全容なのか、いぶかしんだのだ。

 しかし今はソエゴは十分だ。私は部屋を離れ、最初に話したスケルトンを捜した。

 スケルトンは私たちが通り抜けた礼拝堂にいた。彼は古代の司祭のものと思われる重々しく凝った装飾のローブを着ている。そして巨大で印象的なステッキを持っている。その先端には複雑に彫り込まれた角、ぶら下がるペンダント、金メッキされた頭蓋骨が飾られている。

 彼の注意を引こうと、正面に移動した。その二つの燃える残り火のような目が私を見据えたが……何も反応がない。私たちが囚われたのは〈沈黙の王〉の名においてのことなのか、尋ねてみた。

 スケルトンは頭を横に振り、不気味な視線を東のほうへ向けた。そして彼は再び私のほうを向いた。

 〈沈黙の王〉と話すことはできるか質問した。

 彼は骨の手のひらをかざした。そしてカタカタといううなり声と、塵の息と共にあごを開いた。

「駄目だ」

 その声は深く響き、地下室にしばらく反響していた。

「しかし、なぜ?」

 彼の声が、部屋にとどろく。

「いかなる生き物も、王座の間へと通ずる扉を通り抜けることは能わぬ。仮に可能であるとしても、我が汝の謁見を許すことはない。汝が王に会うことはない」

 この質問では、らちがあかない。別の方針を試すために、私たちがなぜ閉じこめられたのかを尋ねた。スケルトンは鳴り響く声で答えた。

「〈沈黙の王〉の御心だ。囚われた生者たちは、静かなる者となるまでここで朽ちるのだ」

「王を説得することは可能か?」

 少しの沈黙の後、彼のあごがカタカタと開いた。

「確かではないが、あるいは。〈沈黙の王〉は、不可思議な存在なのだ」

「お前を説得するには、どうすれば?」

「第一に、なにゆえ汝はここにいる」

 私は青銅の球体を探していると、正直に答えた。スケルトンが気にする理由は何もないと考えたのだ。彼は頭を振った。

「かような物を、見たことはない。なにゆえその物体を探しているのだ?」

 ファロドという名前の男のためだと答えると、ささいな問題が起きた。

 スケルトンが後ずさった。そしてまるで地表を見据えるかのように、遠くを見上げた。

「あのうじ虫で満ちた心臓には、未だに血が流れているのか? あの息を切らせた肉袋は、我らの故郷を略奪するため、未だに群れを送りこんでいるのだな」

 彼は再び私を見た。

「ここに来たのは間違いであったな……我らが国境の内に、かような侵入者を許すことはできぬ」

 私は口を開いたが考え直し、言い訳はしなかった。

「それで、どうするつもりだ?」

「〈沈黙の王〉の法に従い、汝を処刑する。ここで墓荒らしを生かしておくことはできぬ」

 私は最初に思いついたことを言った。実際は、死ぬまで出られないと言われた時から考えていたことだ。

「私は死ぬことができないんだが」

 彼は返答する前に、しばらく私の瞳を覗きこんでいた。

「問題はない。汝は〈沈黙の王〉の視線のもと、ここに永遠に留まるのだ。やがて自らの愚かさに気づき、我らの公平なる文明に資するよう、努力するようになるだろう」

 この会話をさらに続ける前に、あるいはどうやって出て行くか決める前に、〈死者の国〉を見てまわることにした。

 この館には、三種類のアンデッドがいることが分かった。

 第一に、スケルトンだ。その異常な状態は最も長いが、生前の能力を最も維持しているようだ。たとえ残された記憶が、極めて少ないとしても。スケルトンの一人が喋ることができたため、私が閉じこめられた理由を尋ねた。彼はあごに触れ、頭蓋骨をわずかに上に傾けた。

「グールたちは、地下墓地カタコンベを略奪している者を見つけたら、食べてよいことになっている。〈沈黙の王〉は、他の侵入者は—汝のような捕らえられて囚人となった者は—グールにむさぼり食われるよりは、ここで朽ち果てる方がいいと感じたのだ。我らの大祭司ハーグリムと話せ—彼は〈沈黙の王〉と言葉を交わすことができる」

 おお、ならばハーグリムが、私たちを閉じこめた代表者に違いない。少なくとも、名前は分かった。私はハーグリムと〈沈黙の王〉について尋ねた。

「ハーグリム、我らの大祭司だ。〈沈黙の王〉と言葉を交わし、我々に主の言葉と法を伝えてくれる。彼はここに、〈沈黙の王〉の王座の控えの間にいる」

「我らの主であり支配者は、〈沈黙の王〉と呼ばれている。本当に必要な場合にしか、話をしないからだ」

 スケルトンは話しながらしきりに身ぶりを交え、古い関節がきしみ、音を立てた。

「我らの大祭司、ハーグリムと話せ。より多くのことを、汝に伝えることができる」

 この館内にいるアンデッドの種類について訊くと、彼はうなずいた。

「我々はここのアンデッドの中で最も古く、最も肉体から自由となっている。ここで健在なコミュニティを維持するために、他者の先達として、指導者として奉じようと努力している」

「ゾンビ。力強く、しかし精神と体は鈍い。彼らは我々よりも、人間性を—感情を—保っている。彼らは労働者としてコミュニティに尽くしている。彼らの中で最も優しく知的なステイル・メアリーの指導の下に」

「ステイル・メアリーは動きは遅いが、思いやりがあり、思慮深い。彼女は他のゾンビたちの、ある種の母親としての役割を果たしている。ここから西の部屋、汝が最初に〈死者の国〉に入った場所にいるだろう」

「グールは強力で暴力的で貪欲な生き物であり、恐ろしい女族長アカステに導かれている。彼らはこのコミュニティの—〈死者の国〉の—番人だ……しかし、不安定な要素でもある。他のアンデッドの不安と、そして〈沈黙の王〉の不安が、彼らを抑制している。我らが偉大な主の統率がなければ、我々は……我々が保護せし者たちは……いつか彼らの餌食になるかもしれぬ」

 保護せし者たちとはどういう意味か尋ねた。

「静かなる者たちだ……眠ることしかない死者たちだ。我々は、休む彼らを保護し、見守っているのだ」

「誰が彼らの眠りを妨げるんだ?」

「多くの者たちだ」

 彼は喋りながら、ほこりで覆われた黄色い指で数えた。

「飢えて制御できぬグール、ネズミ、そして大半が……生者だ。〈埋ずもれた村〉から来る者たちが—ファロドという名前の男の手下が—たびたび〈死者の国〉の地下室へと降りてきて、静かなる者たちの眠りを妨げるのだ。理由は分からぬし、どうでもよい……唯一の関心事は、奴らの愚かな骨折りを終わらせることだけだ」

 ゾンビたちの話は、ほとんど理解できなかった。明らかに彼らは、まだ腐敗している物理的な発声器を使おうとしていて、口蓋や喉頭を使わずに話すスケルトンたちの芸当を学んでいないようだ。

 私は躊躇しながらグールに近づいた。よだれを垂らした黄色い目のグールは、血と腐肉の臭いを漂わせていた。彼は曲がった牙を、長く汚いかぎ爪でいじりながら、絶えず周囲の空気を嗅いでいる。皮膚は病的な緑色に変わり、腐敗とただれた古傷で覆われている。

「あ~……」近づく私に、モーテが声をかけた。「その……そいつと話したいなんて、どうなんだろな」

「なぜだ、モーテ?」

「そいつらはかつて人間で……そいつらも、その祖先も、死体をむさぼり食って、そんでそんなになったんだ。マジで汚らわしいヤツらだぜ、大将……本当に、動物も同然さ。それも動物だよ」

 グールと話そうとしたが、モーテは正しかった。グールは何も答えられず、私を襲おうとするのをかろうじて自制しているようだった。

 助けになりそうなのはスケルトンだけなようなので、出会った彼らに話しかけ続けた。その一人が、ソエゴの真なる死の伝道のことを考慮しそうに思えた。無駄にするにはもったいない機会だ。

 急ぎソエゴのところに戻り、真なる死のことを考えているスケルトンに出会ったと伝えた。ソエゴは彼に会いに行った。

 彼が部屋を離れてすぐに、金属の死体置台スラブの横のパネルを外した。中には本があった。ソエゴの日記だ。そこには彼がワーラットに襲われ、やがて退行して狼狂となり、無意識に友人を殺害して食い荒らし、〈葬儀場〉から逃走したことが詳しく記されていた。隠れ家を探す彼は思考の群生地に入りこみ、そこに集まる頭蓋ネズミクレイニアム・ラットの集合意識である〈一なる多〉に仕えることに同意した。今の彼は〈一なる多〉のために、〈死者の国〉でアンデッドを偵察している。〈一なる多〉はいつの日か、地下墓地カタコンベのこのエリアを支配しようと考えているのだ。

 日記とパネルを元に戻し、ハーグリムを見つけに向かった。ソエゴに関して学んだことと、その証拠の日記が部屋にあることを、伝えるために。


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