プレーンスケープ トーメント 非公式小説

むせび泣く石の地下墓地

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 次の日、私たちは地下墓地カタコンベに入った。壁には石の顔が並んでいる。その目の下を流れた水が跡を残し、確かにむせび泣いているかのように見える。

 入り口の左側から探索を開始した。その先には、死者の肉を食べる汚らわしい存在であるグールがいた。そしてその後、私たちは頭蓋ネズミクレイニアム・ラットを見つけた。それが十分な数集まると呪文を唱えるというのは、本当だった。ヴァルグイユにも出くわした。人間のような頭に羽根が生えた生物だ。

 墓地の中でいくつか宝を見つけたが、本当に興味深いものは何もなかった。正午までには入り口の左側をほとんど見終えたので、次は反対側で運試しをすることにした。

 湿った石の回廊を歩いていると、壁のゆがんだ石の顔の一つが、玉石が流れるかのような軋んだ声で呼びかけてきた。

「不死よ……私を見てくれ。私は……グリヴ。お前に……話がある」

 石に話しかけられたのと同じくらい衝撃的だったのが、そこで提示された知識だった。

「私が不死だと、どうやって知ったんだ?」

「私には……お前という殻の中で……燃えている目的が見える。この洞窟の……塵が落ちる中……私には……多くのものが見える。お前には……何か本質的なものが欠けている……それがお前を……死の甘い抱擁から遠ざけている」

「私に何を言いたいんだ?」

「聞け。この場所には……多くの危険がある。地表では……裏切りが待っている……そしてお前の道は……長く曲がりくねっている。その果てで……お前は……探していたものを見つけるだろう……しかしその時には……もはやそれを望まないだろう」

 なぜそんなことが分かるのだろうか。

「お前は神託者か何かなのか?」

「神託者? 違う……私は観測する。それだけだ」

「それなら、私の質問に答えられるかもしれないな……」

「何を……知りたいのだ?」

「お前のことを教えてくれ。どうしてそんな状態に?」

「私はかつて……下層区の……コミュニティで……尊敬されし指導者だった。狭量な君主が、力を高めようとした……私の仲間を……友を……親戚を、犠牲にして……友と私は……抗議した」

「そして……彼は私たちを……一人ずつ捕らえ……この泣き叫ぶ顔に……魂と感覚を縛りつけた……〈溝〉の下……シギルのすべての汚物が……やがて至る場所に。そして……汚水を……私たちの口に……鼻に……眼に、流しこんだ」

 グリヴを気の毒に思った。彼は忘れられ、独りで永遠に存在することを運命づけられている。私はすぐに申し出た。

「何か助けになれることはあるか?」

「新鮮な水が……この唇を流れない限り……ここに留まる呪いだ……〈溺れた国〉に……魔法の水の小瓶が……ある。それを持ってきて……味わわせてくれ……そうすれば、お前に……その潜在能力を……解放する……助けとなる者を……教えよう……お前は二度と……水が不足することが……なくなるだろう」

「死者が歩き……統べる……〈死者の国〉を……あるいは〈一なる多〉が支配する……思考の群生地を、通り抜けろ……どちらにも……危険は存在する」

 私たちがすでに出会ったグールなどのアンデッドが支配するエリアと、頭蓋ネズミクレイニアム・ラットが猛威を振るう場所のことを言っているのだと理解した。

「この地下墓地カタコンベについて、教えられることはあるか?」

「この地下墓地カタコンベは……久遠の昔……塵人ちりびとの情け深い奉仕を……望まない死者たちを収容するために……造り上げられた。そしてその後……都市の掃き溜めとなった……希少な怪物が生息し……腐肉食動物の中の腐肉食動物のように……人々がうろつく。洞窟を〈一なる多〉が巡回し……その性質に反して……数を増やした。〈死者の国〉もまた……同様に徘徊はいかいし……やって来るヒューマンたちの……略奪を防いでいる」

 私たちは石の顔を後に残し、先に進んだ。その回廊の終わりの墓には罠しかなかったため、引き返して別の道を試した。再び罠だらけの墓を見つけたが、ファロドのごみあさりたちの死体に、驚きが待っていた。

 腕だ……木の棍棒のように硬い……切断された腕だ。肩の部分で綺麗に切断されていて(おそらく大鎌によるものだろう)、何十年も昔のものに見えるにもかかわらず、腐敗せずに石化している。不健康そうな青白い灰色で、傷に覆われている。表面を飾る複雑なタトゥーが、手首から肩まで渦を巻いている。

 詳しく調べると、この腕は確かに私のものだと分かった。どれだけ長いあいだ私を待っていたのかは、誰にも分からない。

 〈くすぶる死体亭〉のバーテンのバーキスが、酒場の近くの入れ墨店について話していたことを思い出した。そこの店主が、特別なタトゥーを扱っているという。この腕のタトゥーについて、何か知っているかもしれない。タトゥーを入れた本人という可能性もある。これは、しばらくファロドの依頼を中断するほど、重要なことのように思えた。

 入れ墨店はすぐに見つかった。ほとんど酒場の隣だ。私は独りで入った。記憶はわずか数日で広がり、用心することを学んでいた。モーテは信用できるのか、確信が持てない。もしこれ以上過去を知ろうとするなら、仲間に何を伝えるのか判断したいと思ったのだ。

 中に入ると、もじゃもじゃの白髪の背の高い生き物がいた。皮膚は緑がかった色合いで、額から一対の山羊の角が突き出ている。そして長く流れるようなローブをまとっている。ダバスだ。しかし、浮かんでいないところを見るのは初めてだろう。

 ダバスにあいさつした。彼は手を袖に入れ、辛抱強く待っている。頭の上に記号が実体化し、そして消え、クエスチョンマークがあらわれた。彼は記号的な絵で、判じ絵で、話しているのだ。

 私はダバスにいくつか質問し、頭上にあらわれる判じ絵を感じ取ろうとした。忍耐強い“議論”によって、簡単な文を翻訳することができた。数分後にはコツをつかみはじめた……以前にも同じことをしたことがあるように感じる。

 彼の名前を訊こうとしたが、すでに知っていることに不意に気づいた—彼の名前は「フェル」だ。ダバスは呼応するかのように頭をわずかに下げ、その頭上に記号が一つだけあらわれた。それは最初は不鮮明で、次第に白い楕円とそれを貫く黒い稲妻に変わった。

「フェル、お前のことを知っている気がするんだが」

 フェルはうやうやしくお辞儀し、頭の周りで記号の流れが渦巻いた。最初は時計回りに、そして反時計回りに。それを翻訳するのに、しばらく時間がかかった。

(これが初めてです。そしてあなたがこの場所に来たのは、初めてではありません)

 私のことを知っているのか尋ねた。フェルの頭上に、別の記号が素早くはっきりと実体化した。その訳文も、同じように素早くはっきりと思い浮かんだ……まるで同じ文字列を、何度も翻訳したことがあるかのように。

(はい。しかし私には、その物語をお伝えする権限がありません)

 素晴らしい。なぜなのか尋ねた。しばらくのあいだ、フェルからの反応はなかった。そして、彼の心から滴り落ちるかのように、判じ絵があらわれた。

(申し訳ありません。私には、人の本質を変えることはできません)

 なぜかは分からないが、その言葉に、頭蓋骨の中を這い回るような感覚がした。

「『人の本質』? どういう意味だ?」

 一つ前のものと酷似した記号が、フェルの上にあらわれた。

(申し訳ありません。言えません)

 この件については、これまでか。

「この場所は?」

 フェルの頭の周りに、記号の列がゆっくりと実体化した……記号が像を結ぶのに、少し時間がかかった。最初はシンプルな線で、やがて息をのむような色彩に包まれた。

(私が肉体と骨に、色と命を入れ墨するところです)

「私の体のタトゥーについて、何か分からないか?」

 フェルはしばらく私の周りを歩き、体を調べた。調べるごとに記号を映し出し、そして私の顔を見た。

(知っています。私の手によるものではありません)

  いずれにしても何か教えてくれないかと尋ねた。フェルはうなずき、記号がホタルのように周囲にあらわれた。

(背中のものは丁寧に刻まれていて、自らを忘れる心のための指示となっています。左肩にあるシンボルは、苦悩の印です)

「苦悩?」

 記号が鋭くなった。目に痛いほどに。

(“苦悩”です。すべての苦悩する魂を、あなたに引き寄せるものです)

 フェルは私の左腕と肩をあごで示した。

(心が忘れてさえ、肉体はその苦しみを知っています。そのため、あなたはそのルーンを常に身につけているのです)

 次は私が持ってきたものだ。

「フェル、この切断された腕にタトゥーを入れたのはお前か?」

 フェルは紋様を指でなぞりながら、しばらく調べていた。そして目を上げ、一連の判じ絵が形作られた。最初はぼんやりと、次第にはっきりと。

(この腕はあなたのものです。このタトゥーは私のものです。タトゥーの一つは、あなたの道が他の四人と分かち合われていた時のことを語っています)

「どんな四人だ?」

 腕の紋様と一致する記号の列が四つ、フェルの頭から渦巻いた。

(彼らの心を、語りましょうか?)

 彼に続けるよう促した。記号が目の前で渦巻き、私はそれをつなぎ合わせた。

(愛さぬ者を愛した、愛されぬ者)

(他者が見るものを見ず、他者が見ぬものを見る者)

(親しく、そして義務に縛られた者)

(言葉の鎖につながれた、隷属する者)

 翻訳を終えると、四つの文字列が輪になり、組み合わさって鎖になった……その鎖が折れ曲がり、一つのシンボルとなる。私の腕の、苦悩のシンボルに。

「腕には他にもタトゥーがあると言ったな。それは?」

 フェルは再び腕を調べ、表面の色あせたタトゥーを指でなぞった。そうしていると、それぞれが記号として彼の頭上にあらわれた。最初はぼんやりと、次第にはっきりと。彼は私の顔を見た。

(忘れられ、今思い出されたものたちです。望むなら、再び身につけることができます)

 フェルは特別な才能により、自在に身につけ取り外すことができる魔法のタトゥーを作ることができた。彼の出来合いのタトゥーに加えて、持ってきた腕と私の経験から、新たなタトゥーを作ることができるらしい。彼はそれを絵の言語で見せ、説明した。

 彼が「失われた前身の入れ墨」と言い表したタトゥーは、過去の私の経験を物語っている……その記号と物語に覚えはないが、出会う者から奪い盗むことでは生きていけず、〈蟲蔵むしぐら〉の街路に打ち捨てられた時のことであるようだ。犯した罪によって身を隠さざるを得なくなり、〈むせび泣く石の地下墓地カタコンベ〉で一年ほども生き延びたという。

 もう一つの「消耗する闇の入れ墨」も同じ時のもので、シギルの当局から隠れて影のように生きることを余儀なくされ、さらに危険な〈むせび泣く石の地下墓地カタコンベ〉の住民からも身を潜めなくてはならなくなったことを物語っている。

 当時を語る最後のものが、地下墓地カタコンベが第二の故郷であった頃の「むせび泣く石の入れ墨」だ。私は墓地の中へと旅し、闇の中で生き、シギルの地下で石がむせび泣くようになった理由を知ることになった。

 しばらく他のタトゥーも調べ、もっと時間とジャラがあるときに戻ってきて購入することにした。

 外で仲間と合流した。例によってモーテは、冗談を言わずにはいられなかったようだ。

「戻ってくるって分かってたぜ、大将! アンタにはオレが必要だって、ようやく気づいたんだろ?」

 中で学んだのはささいなことだったが、黙っておくことにした。


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